彼の日が当日
バレンタインネタ
受信フォルダを確認する。毎日、いや毎時に近い頻度のルーチン。誰かが隣にいたならば、きっと意味の無さに呆れるんだろう。否定はしない。意味は僕の中にだけあればいいのだから。
「着た!」
僕の叫びはすぐに吸い込まれる。誰にも聞こえない、聞かれない。届いたテキストファイルの送信元から、遠く遠く離れた宇宙の闇の中だから。正確には孤独ではないけれど、それに近いこの環境は人には難しいから僕はここにいる。
テキストファイルは開かずに、すぐ印刷にかける。それを待つ時間がもどかしくも胸が高鳴らせていく。意識の向こうへ行く前に履歴は消しておく。これを知るのは、僕とメッセンジャー、そして君だけでいいのだから。深呼吸という人のような動作をして、薄いありふれたコピー用紙を手に取った。
〝貴方がこれを読むのは、一体何時になるでしょうか。日付、時間など気にしても意味はないでしょうけれど。〟
用紙に踊るのは、君の飾らない筆跡の再現だ。擬似的な、手書きのラブレター。僕の闇に輝く、素敵な光。大げさですね、と言う君の声が想像できる。
〝けれど、大まかな予測というものはあります。この日の前後に貴方私の字を眺めているのでしょう。貴方の好きな、聖人由来の記念日の。〟
君と迎えたい日の一つ。誕生日でもクリスマスでもない、でも君にプレゼントをあげたい日。今年のそれは、まだ帰路には程遠くて、こうして君の字をなぞることしかできない。君はきっと、忙しくしているんだろう。僕みたいな、こういうのが好きな人はいっぱいいるから。君はあまり好きじゃないだろうけれど、いつも僕に付き合ってくれる。
〝この手紙は恐らく当日ではないでしょうし、貴方の返事、ましてや会えるのは全く関係ない日になるでしょう。けれど、〟
「クリスタル……!」
その先を読んで、僕は思わず君を呼ぶ。
〝貴方への贈り物を手に、私は空を見ています。〟