白黒的絡繰機譚

フォーカス

珍しいこともあるもんだ。あまりに珍しすぎて、これは後で運の振り戻しでもあるんじゃないかと思わなくもない。そう思ってしまうのが虚しくもある。過去の自分が嘲笑うような幻聴でも聞こえそうだ。

「今月の見頃は、ここに植えている――」

普段の不機嫌というかおざなりな声や口調からは随分とかけ離れた、所謂営業ボイスに営業スマイルを貼っつけている。誰が? 勿論ここの実質ボスとでも言うべきジャイロが、だ。

「よし、一旦止めろ」

いつもどおりの声だ。ちょっと安心する。掲げてた手を下げて、停止ボタンを押した。今日の俺は、コイツの撮影係に甘んじている。普段の箒がカメラに替わっただけだろ、と言われたら言い返せないが。

「ほら、貸せ」

労いもなく差し出された手に型落ちのカメラを載せる。静かに映像を確認する様は、無駄に真剣だ。勿論、口に出したりはしない。ホント、お前はここの経営の事になると真面目になりやがる。今更そんな、アクセスもろくになさそうなホームページのコンテンツを増やしてもどうにもならないだろうに。今日だって誰もいないからの撮影だ。

「……まあ、良いだろう」
「そりゃどーも」

そう色々思いつつも、結局その今更に俺はいつも付き合ってしまう。別にこの庭園自体はどうでもいいんだが、まあ、うん、コイツの為だ。単純明快。

「あと二箇所だからな、んなダルそうな顔をするな。あと、もう少しちゃんと花を映せ。まあ、そこはお前に頼んだ俺が悪いか」
「そりゃあ……」

俺の事を十分にわかってる青色が細められている。呆れるよりも、心底楽しそうに。見透かされてる。今更だが。戻ってきたカメラを通して、それを見る。ファインダーを通したって変わりゃしない、さっきまでとは全く雰囲気の違う、いつものジャイロがそこに映っている。

「……」

やっぱり見透かされている。聞かないし、答えないだろうが分かる。さっさと移動すりゃいいのにそうしない。でも、流石にこれじゃ安すぎる。

「……一枚、良いだろ」

返事の前に、シャッターを押す。何の変哲もない、目線もなけりゃ愛想もないそれだが、……報酬には、これがいい。