白黒的絡繰機譚

坂の下には何がある

特定の個人に好かれる方法を模索する者は数いれど、逆はそこまで多くないんじゃないだろうか。勿論、模索したところでそれを試すなんて出来ないが。

「心此処にあらず……って感じだね?」

酷く優しい、楽しんでいるような声が降ってくる。見上げた先にあるのは、無機質な頭部。表情と声が一切噛み合わないそれは、ゼロじゃないものを俺に向けている。ゼロじゃないけれど、分からないものを。

「そりゃ、まあ。放心するようなコト、されてましたからね」

よくもまあそれっぽい事を言えるもんだと、我ながら呆れる。上っ面だけの、それっぽい、まあ睦言みたいなそれは、一体この人にどう聞こえているんだろうか。もしもっと熱のこもった、ちゃんとしたものを言って欲しいのなら、俺に求めてもどうしようもない。……そう、何が主目的でも、俺以外の方が良いだろうに。

「君相手だとブレーキなんて仕事しないからね」

ごめんね、と小数点以下も本心ではなさそうな謝罪が素通りしていく。

「あれ、ちょっと拗ねてる?」
「別にそんなんじゃない、ですよ」
「そう? 君に関しては詳しいつもりだけどな、誰よりも」 「……そういう事、俺相手に言うもんじゃないでしょう」

遂に、口からこぼれ落ちた。ブレーキが仕事してないのは俺の方だ。意味のない演算負荷を抱えつつ、反応を待つしかない。
何も見えない、判断できない、無機質な電光が俺を見ている。逸らされない。逸らしてくれない。

「ニトロマン」

声は、声だけはまるで楽しんでいるように。獲物を悪戯に嬲る肉食動物のように、それにしては無機質なガラスが俺を映している。

「そういえば、言っていなかったっけ。……君は聡明だからと甘えてたかな」

酷く軽い、いやこれは……まるで、甘いような、そんな声に聞こえた。きっと負荷のせいだ。そうに決まっている。
負荷で押しつぶされそうな、いやもう押しつぶされているであろう中、警告が混じる。逃げたい、逃げられない。だって、おかしいじゃないか。火遊びよりも強固だけど、そもそも都合がいいからだろう。俺が脛に傷のある、現在進行系で傷を作り続けているロボットだから。ちゃちな正義感や倫理観で動けない、自己保身を考える程度の思考力があるロボットだから、それだけでしかない。
それに、そう、どうしようもなく根っからの悪役、ヒールのアンタに誰もそんな展開望んでない。まるで人間みたいな感情の入る隙間、設定なんて、あるわけがない。なのに、どうして、

「君が好きだよ、ニトロマン」

嬉しそうに、楽しそうに。ありふれた、薄っぺらい、誰でも誰にでも言える台詞だと、俺は分かっているのに、なんで、

「さて、折角だし君からも言って欲しいな」

それが演技でも嘘でもないのが、分かるんだろう。