白黒的絡繰機譚

アドリブは許されない

「イメージと違ってびっくりしました」

そう言われるのは何度目だろうか。言った後輩ロボットは、慌てて色々取り繕ってきているが、こっちもそういうのは慣れているので気にしなくていい、と返しておく。自分でも、まさかここまでになるとは思ってなかったのだから、他者から見れば余計そうだろう。
大概「イメージと違った」と言われる理由は、撮影中とそれ以外の差、らしい。撮影中はストイックすぎて、今みたいに普通に話せる気さくな感じとは違うだとか云々。
みんなそういうように作られているんじゃないのか、と思うんだが、大抵皆そこまでではない、というような事を言ってくる。おかしいな、俺達ロボットに求められるスタントアクションっていうのはそういうものじゃないのか。もっと人間的な、それこそ役者ではできないものを任されているんだから、そうではないといけないんじゃないのか。俺達はそう作られたロボットなんだから。
――なんて、少々モヤモヤしたものを抱えつつ帰路についた途端、携帯が鳴った。デフォルトではない、やや大きめの音量に設定されたそれに、余計モヤモヤする。あまりにもなタイミングに、もしかして俺は監視とかそういうのをされているんだろうかという考えがよぎる。洒落にならない。
届いたメッセージを確認する。

『来て』

たった一言、短い割に重たい言葉だ。俺以外の皆は、これをどう受け取るんだろうか。想像はつく、なにせあっちはイメージを完璧に作り切っている。
こっちこそイメージと違うの最たるものだと俺は思うんだが、残念なことに恐らく真っ当な世の中でそれを知っているのは多分俺だけだ。仕方なしに、そちらに向かうことにする。断る、無視するといった選択肢は残されていない。

「イメージ、なあ……」

誰も彼も、仕方がないことだが他者へ勝手なイメージを持つ。俺だって人のことは言えやしない。多分アイツにも、俺は勝手な、いや当然なイメージを持っているわけだ。勿論、あっちも。聞いてみたいような、聞きたくないような。
聞かなかったら、何もかも存在しないふりが出来る。存在しないふりをしていたい。一体を何を? そんなの――。
……いや、駄目だ。考えるな。これからに集中しろ。いつもどおりに、淡々と、冷静に。お行儀よく、ゼロを保ってこれ以上も以下もないように。
今から始まるのはスタントよりもストイックに挑むべき俺の、俺を守るために唯一役者であるべき時間なのだから。