白黒的絡繰機譚

距離の埋め方

軽くマスクレス描写有り。

「……なんだよ」

さて、なんだろうな。口には出さずに手を伸ばす。指が正面の奴のバイザーの先端をなぞるように掠めた。これがこの色ってことは、コイツを作ったどこかの誰かは、やっぱり空を飛ぶならこれだろとか思ったんだろう。それにジェットエンジン背負わせてるのはどうかと思うが。

「やっぱり邪魔くさいなと思ってな」
「おま……っ、なあ……! 別に邪魔だと思わせたことないだろうが」

なんだか引っかかる言い回しをする。一瞬まずい、というように顔をしかめてから元に戻すのが見えた。全部表情に出てくれるから楽で助かる。じゃ、どうやって聞き出してやろうかね。

「そりゃ、お前の顔でも殴ってやろうとしない限りは思わないが」
「……。最初に出てくるシチュエーションがそれってどうなんだ?」

大事なことだと思うがね。何せ俺達は戦闘用なのだから、思考の優先順位がそっちで問題ないだろ? ま、コイツとそういうことにならないだろうってのは、勿論分かってるがな。言う気はないが。

「普通は、……こう、だろ」

ぐ、と距離が縮まる。バイザーの先が小さな音を立てて俺の額に当たった。……別に、俺だってこの可能性くらいは浮かんでるよ。どっこいどっこいだろうに、コイツはどこか俺を経験値が少ないと思っている節がある。ムカつくな。

「でも、邪魔なのは俺じゃなくてお前だろ?」

この手のひら程度の距離をゼロにしたくて仕方がない面しやがって。ま、そういうのは嫌いじゃない。

「そうかもしれねえが……」

恐らく口端を持ち上げたのだろう、と推測する。正解はすぐに分かった。視覚ではなく、触覚で。

「……こうやって、毎度ちゃんとズラしてんだよ。だから『邪魔だと思わせたことがない』だろ」

つまりお前、毎度ちゃんと目を閉じてたわけだな、と元の距離で宣うので、ならこれならどうだ、と反撃する。やや強めになったが、結果は同じだから問題ない。筈だ。
で、どうだったかって? ……まあ、宣った通りに邪魔にはならなかった。