白黒的絡繰機譚

来年もきっとやって来る

クリスマスネタ。付き合い始めてそこまで経ってない頃。

こんな日に行くなんて初めてだなあ、と思いながら歩く。いや、そもそも普段からそんなに行ってはいないけど。あっちはどうだろうか。多分似たようなものだろう。だって、正直あんまり似合わないし。

「ウェーブ」

そんな似合わない男は、店の外で少し寒そうに立っていた。結構待たせたんだろうか、中で待ってれば良かったのに……と言おうとして、中の混み具合に飲み込んだ。やっぱり凄いんだな、今日。

「凄いな、やっぱり」
「ええ、想像以上でしたね。受け取るだけなのになんだか疲れました」

本当に疲れてるような顔でそう言うから、思わずマスクの下で笑う。気づかれたかどうかは分からないけど、別にそれで怒るわけでもないしいいか。そのまま二人で歩いて、家に向かう。いや、俺の家じゃないけど……まあ、別に大して変わらないか。多分言ったら凄い喜びそうだな。言えないけど。というか、今もただ歩いてるだけなのになんだか嬉しそうに見える。いや、俺が見る限りはいつも嬉しそうだけどさこの人。

「最初は、驚いたんですよ」

まああの人の多さは正直ビビる。まさに戦場だ。

「何時ものように、貴方のリクエストには何でも応えるつもりで下調べしてました。けど、まさかこう来るとは思わなくて……」

ああ、そっちか。いや別にクリスマスだからって高いレストランなんか行かなくても、普段から連れてってもらってるし。じゃあそれらしいのって考えて浮かんだのが、フライドチキンのこれ。子供の頃はCMを見るたびに憧れたりしたけど、実際買おうとしたことなんてないから、公式サイトを見たら思った以上に色々あって驚いた。あとわりと値段が張るところも。ま、普段のデート……多分……よりは安いんだろうけど。

「子供っぽかったかな……」
「いえ、いえ、全然!」

食い気味に返してきて、更に手まで取ってきて。いつもどおり、嬉しそうな顔で。
勝手なリクエストをしてプレゼントも何も用意出来ないのに、それで全然良いって言う男。作り話みたいな出会いからずっと、全然変わらないおかしな奴。
……それなのに、よりによってこの日に俺は、一緒にいるのを受け入れてしまっている。段々絆されてきてる、んだろうか。正直恋愛的に見れてはないような気がするんだけど、別にじゃあ嫌ってわけでもない。自分でもよく、分からないけど。

「考えたらとても、とても良いなと。……まるでもう、家族になったみたいでしょう?」

言われて気づく。確かにこれを、家で一緒に食べるなんてテレビの中の家族そのもので。……マスクをしてきて良かったな、なんて、思った。