白黒的絡繰機譚

特別ではないプレゼントが

クリスマスネタ

「――随分大人しかったな?」

遥か下の豪華なイルミネーションも、聞き飽きた定番ソングも、浮かれた人の波も消え失せて早数時間。その静かな闇の中での作業を終えた管理ロボットが、星を見上げて言った。

「……。お前がそうしろって言ったんだろ」

やや不機嫌そうな、けれど怒りのない声が返事をした。数秒して、静寂を破る音とともに声の主が地上に降り立つ。ガラスの向こう側と違って緑が隠されていない此処は、それでもしんと冷え込んでいる。

「へえ、いい子だな。……ま、それ以上に悪い子だから、サンタは残念ながら来ないな」
「サンタ?」
「子供騙しのおとぎ話だよ。ま、お前の嫌いな集客用のやつさ」
「……。ああ、これか。ちょっと考えりゃ分かりそうなもんだが……」

聞こえた単語の検索結果を閲覧した結果、呆れたような声が返ってくる。一晩で世界中の子供達にプレゼントを……というおとぎ話は、当たり前だが信じられるものではない。スピードに自身がある身からすれば、余計にあり得ないことが分かるのだろうか。

「お前が思ってる以上に子供ってのは馬鹿だし夢いっぱいだからな。それに、信じても信じてなくても、無償のプレゼントってのはとりあえず嬉しいだろ」
「……」
「大人だって信じてもいないのに、色々口実に好き勝手やってるからな。ほら、イルミネーションとか」
「ジャイロ」

がさ、と踏みつけられた落ち葉が音を立てる。

「……なんだお前。あんなにイベントごとが嫌いな癖に、プレゼントでも欲しいのか?」
「別にイベントが嫌いという訳じゃ……、というか分かってて言ってるだろお前」
「そりゃ、んな顔されたらな?」
「……」
怪訝そうな表情に、マスクの下で満足げに笑うのが分かった。

「ジュピター」

イルミネーションどころか手元の明かりすらなく、バックミュージックもクリスマスカラーも存在しないし見えない。只2体のロボットがいるだけだ。
サンタクロースは来ない。ご馳走もイルミネーションも、決まり文句もない。だが、

「喜べ、日付変わって本日から冬季休園だ。最高のプレゼントだ、」

言い終わる前に轟音が響き渡る。後にはもう、誰もいない。空気取入口が1つ、開いたままになっているだけだ。