白黒的絡繰機譚

そんな叫びは貴方のせい

※18禁描写有り※ ネプチューンプロデュースでウェーブがVチューバー的なことをしている現パロその2。18禁描写はウェーブソロです。

「本日もお疲れ様でした。……少々、今後についてお話があるんです」

遂に来たか、と思った。
何でかはさっぱり分からないけど、配信は何故か好調。チャンネル登録数も増えてきたし、俺も流石に色々慣れてきた……多分。そうなると、いつまでも俺がコイツを、ネプチューンをその、独占とか専属みたいにしてたら、いけないよな。分かってる。分かってた。俺とは違って、凄い仕事できるし。多分本当は、もっと上の役職らしい仕事してる筈なんだよなどう考えたって。勿論、ネプチューン本人がやりたくて俺の担当してるのは間違いないんだけど。こうやって配信終わった後に切り出してるあたり、先に言ったら支障が出る内容ってことだもんなあ……。

「ウェーブさん、ちょっと顔色が悪いような……」

そりゃ顔にも出る。アンタは俺と違ってポーカーフェイスとかできるんだろうけど。頭を振って、視線だけで大丈夫と訴えて、言葉を待つことにする。変に何か言うと愛想をつかされそうなものになりそうだし。今更遅いとは思うけど、好きだから嫌われたくない。そう思ってる。ネプチューンは少し迷ったみたいだけど、視線はちゃんと通じたみたいで姿勢を正して口を開いた。

「その、ですね。お引越しを、しませんか」
「……。ひっこし……? 引っ越し?!」

全然予想してないのがきた。しかもこれ、あっちが引っ越しするんじゃなくて俺が引っ越するんだよな?
混乱してるけど、とりあえず俺が一番嫌だった担当替え的な話では、ないっぽい?

「今後の『佐々波 流』の展開として、フルトラッキング技術を使った動画作成をということになりまして」
「フルトラッキング……?」
「顔や手だけじゃなく、全身の動きをキャプチャーしてモデルを動かそうってことですね」

うーん、いつものことだけど俺の知らないところでどんどん話が進んでる。いや俺は分かんないし、コイツが決めてくることにあんまり異論はないんだけども。とはいえ、夏だからとかで浴衣モデル用意してきたり、ちょこちょこ自分の趣味だろ……みたいなのもあるから、そこはどうなんだろうなって思ったりもする。それでも同接数とか、アーカイブの再生数、SNSのフォロー数なんかには反映されてるから、プロデュースとしては成功なんだろうな。

「そうなると、やはりこのアパートだと手狭ですので」
「まーそれはそうだけど……。でもそういうのって、なんか専用スタジオとかあるんじゃないの?」

誰かの動画のサムネで見たような。中の人のくせに、本当に知識ないな俺。

「確かにありますね。ですが、そのような規模になると今みたいに二人体制というわけにもいかないので……。自宅でできるタイプの、もう少し簡易なものでいこうかと」
「なら、そうなる……のか……?」

分かるけど分からない、というか……なんか、違うような。違和感を言葉にできない俺の前に、ネプチューンはコピー紙の束を出してくる。どうやらもうアタリをつけてる物件がいくつもあるらしい。……俺の引っ越しだよな? とりあえずぺらぺらと確認する。……やっぱりなんかおかしい。

「ネプチューン」
「はい」
「どれも、一人用の物件じゃないよな?」

配信用に部屋が必要なのは分かる。今の古いワンルームじゃ全身動かしたり、どの程度が分からないけどそれ用の機材入れたりしたら、多分下の階に迷惑もあるかもしれない。だから作りのちゃんとした、広い部屋ってことなんだと思う。けど、配信用に一部屋取るとしても一人なら面積も部屋数も多くないかって物件ばかりだ。

「そうですね。……先程までのは『佐々波 流』の今後の話です」
「……」
「そ、そんな顔しないでくださいよ。つまりその……いい機会なので、一緒に住みませんか、という……」
「ネプチューン」

あ、ちょっと、いやかなり不機嫌そうな声になった。でも実際そういう感じではある。またこういうことをするんだ、コイツは。

「アンタはいっつも、勝手に決めて」
「すみません……」
「こんな、騙し討ちみたいなことしなくたって、俺は、俺だって……」

こうして週に何回も一緒に居られるけど、でも結局はお互い仕事の時間で。隣の部屋だけど、結局そこに住んではないネプチューンは家に帰らないといけなくて。会ってるけど足りないみたいな、そんな感じがずっと続いてて。そういうの、全部解消できる。勿論、一緒に生活するっていうのが綺麗事だけじゃすまないのは分かってる。俺はどう考えたって、他人に配慮して日常を送れるようなタイプじゃないから、コイツには相当負担をさせてしまうだろう。改善する気はあるけど、それにどれだけかかるかわからないし……。不安は、いくらでも湧いてくる。でも、それでも、それでもだ。

「……アンタと一緒に、いたいに決まってるじゃん……」
「ウェーブさん……!」

ぎゅ、とネプチューンに抱きしめられる。こういう、ちょっとオーバーアクションなのは嫌いじゃない。……勿論、コイツ限定だけど。




「同棲ってやつだよなー……」

自分の部屋のベッドの上で、天井を見上げながら声を出す。まだなんか身体がふわふわしている感じで現実感がない。
――今の、つまり恋人同士になって半年経った。そこに同棲なんてステップアップが来たら、それ以上にもなっちゃうんじゃないの? 多分なるよな、いい大人なんだし……。いや、どうなんだろう。俺は……俺はそうなったら、いいなって思ってるけど、ネプチューンはどうなんだろうな。流石にそんなこと、口に出せなくて。探るような言い回しなんて俺にはできないし。今のキスやハグするだけのが嫌ってわけじゃないんだけど、でもやっぱりいい年の男なんだし、そりゃさあ。

「……よし」

身体を起こして、ベッドから降りる。クローゼットを開けてバスタオル一枚と、奥の奥にある小さなダンボールを自分しかいないのにそろりと引き出す。中にはちょっと前に通販で買ったものが入ってる。自分で買ったくせに、使おうとするたびに自己嫌悪がすごい。でも、ある意味期限が決まったようなものだし、今しかできない……と思う。
ベッドにバスタオルを敷いて、箱の中身を取り出す。入っているのは、

「これ以上……だよなあ」

捻った棒みたいなシリコンの……つまりその、エロ用の道具。あと潤滑剤。まさか自分がこんなものを手にすることになるとは、あそこでバイトしてた頃の俺に言っても信じないだろうな。しかもその……使う、つまり入れるのは俺の方、だし……。いや、だって、俺がネプチューンを抱く方になるのって、どう考えても無理だろ? いや、抱けないという意味ではなく……こう、経験値とか色々な意味で……。多分俺がこっちがいいとか言えば、その通りにしてくれる気はするけど……。勿論、色々、本当に色々考えた結果、俺がこっちかな……という結論になったんだけど。その上で、このままだと全然できる感じじゃないから、自分でやるしか……ってなってるわけだ。俺からしたいって言ったところで、俺のことを意味不明なほど大事にしてくれてるネプチューンがそのまま押し倒してくれるわけもない。逆に俺が押し倒したとして、用意してなきゃ最後まで到達するのも無理なわけで……。じゃあ用意するか、となった。……俺も随分頭おかしいと思う。でもそれくらい色々限界になってるわけで……。これをネプチューンに言わずに勝手に一人でジタバタやってるあたり、さっきのネプチューンを責められた立場じゃ全然ないんだよな。でも、これも全部ネプチューンのせいだから。本人が言ったけど、よくない考え方だよな。それでも、うん。

「……っ」

スウェットの下をズラして、片手を入れる。まさか検査や病気でもないのに自分で触るようなことになるとは思わなかった。でも、男だとまあ、ここしかないわけで……。最初は絶対無理だろとしか思えなかったんだけど、

「あ……っ、んぅ……」

続けていると、なんか、段々イケるような気がしてきた、ような。しばらく指で触ってから、開いている手で潤滑剤のキャップを弾く。絞り出した中身を手のひらで少し温めてからプラグにつける。黒いシリコンがテラテラしてるのは、ちょっとエロい……のかもしれない。それをあてがう。10円玉くらいの太さのそれが入るわけないと思ってたし、実際最初は入らなかった。でも、ゲーム実況もそうだったけど、人間続ければなんとかなるものだった、らしい。

「ん……っ、はいったぁ……」

突起がひとつ、ふたつ、と入っていく。それの感触で背中に走る何かが気持ちいいってことなのかはまだ分からないけど、ぞくぞくする。まだちょっとひんやりする潤滑油とプラグが俺を絶妙に現実に引き戻すけど、目をつぶって想像をする。プラグの先にあるのは、俺の手じゃなくて――。

『――ここまで入りましたよ。慣れてきましたか?』

そう、多分こんな感じで、優しい低い声で。ゆっくり俺が痛がらないような速度で、きっと。

『これが全部入るようになったら、私とも繋がれますね』

だから、こんなことをしてる。別にそこが終着点だとは言わないけど、やっぱりそういうことがしたいって思ってるから。アンタも、そうだといい。だから、俺の中のアンタは、そう嬉しそうに言ってくる。
前にも手を伸ばす。別に隣にアンタはいないし、いても聞こえやしないだろうから抑える必要なんてないんだけど、それでも声を押し殺してしまう。

『声、聞かせてください。貴方の、私だけしか聞けない声を』

だって、本物に聞かせたい、じゃん?
声を抑えたまま、両方動かして多分気持ちよく、なっていく。ぐ、と押し込んで強めに擦った瞬間、

「――っ!!」

どろ、と吐き出して、段々冷静になっていく。……ああ、もう一回風呂場に行かなくちゃ。




「こんなもん?」
「ええ、良いと思います」

遂にやってきた引っ越し当日。俺とネプチューンは二部屋分の掃除をしていた。この配信用の部屋は、同じ事務所の新人が使うらしい。まあ折角防音仕様にしてるし、その方がいいのかも。勿論パソコンとかの機材は持っていくけど。誰か分からないけど、実家を出てデビューする新人は頑張って欲しい。それで売れてくれると、俺というか『佐々波 流』へのお偉いさんからの期待値が下がるかも……なんて駄目な理由だけど。

「……」

ものがないとちょっと広く見える狭い部屋を見渡す。取り壊しになるまで住むんだろうな、と思ってたここから全然別の理由で引っ越す日がくるとは思わなかった。

「今日から、二人かあ……」

掃除道具を片付けながら呟く。後は不動産会社の人に立会してもらったら終わりだ。まだちょっと、現実感がない。

「ええ、二人ですよ。楽しみですね」

ネプチューンは嬉しそうに笑っている、多分。勿論俺も、嬉しいけど……。

「あの、あのさ、ネプチューン」

……今日から二人。今日だし、今日だから、言ってみても、いい、よな?

「今日からだし、荷ほどきとかあるから、休みも取ってるし、さあ」

顔にしっかり出ていたんだろう、ネプチューンは一瞬目を見開いてそれから俺の身体を引き寄せる。

「……また貴方に言わせてしまいましたね」
「だって、アンタが言わないから」
「すみません。しかし……」
「分かってる、男同士だし……その、すぐにってのは無理、だから……」

顔が熱くなる。今更だけど、やっぱりその、恥ずかしいは恥ずかしいし。でも、言わないと。

「……色々、その、準備は……してて……」
「準備」
「……と、とにかく、大丈夫、だから……!」
「……その、大変嬉しいのですが……」

あ、ちょっと、嫌な予感。

「休みが終わったら、実はコラボ企画の予定を入れていまして……」
「……は? 俺、聞いてない」
「ちょっと内容が……先に言うと多分貴方脱走しそうで……」
「えっ、何」
「歌です」

無理。それは無理。確かに俺はそれ聞いてたら逃げるけど。でもだからって、さあ!

「なのでちょっと、身体その他に負担がかかる行為は……当分……」
「……ね、ネプチューンの馬鹿ーーー!!!!」

防音すら貫通する大声は、下まで来ていた不動産会社の人にも聞かれていた。