白黒的絡繰機譚

ノーリアクション、それでいいの

「……何してやがる」

溜息を吐いて、横を向く。何も見えやしないが、何かいるのは分かっている。

「うーん、暖じゃなくて冷を取ってる?」

気の抜けた声が返ってくる。どこから突っ込むかを考えるのも面倒くせぇ。
俺の身体は人間みたくどこでも触覚があるってわけじゃないが、コイツは分かりやすい。なんせ磁石だからな。どう触れようと、俺の意思関係なく引っ張られちまう。

「ハードの身体、冷たくて気持ちいい」
「お前が言うと変な意味みてぇだから止めろ」
「えーひどい」

ちっとも堪えてない声が返ってくる。毎度のことだ。つまり俺は、毎度意味のないことをコイツに言っているわけだ。面倒くせぇ。

「まあ、変な意味も全くないわけじゃないけど……」

これだ。言われなくとも知っちゃいるが、なんでこう自白をするんだコイツは。素直に馬鹿だ。

「あ、別に何もしないよ?! 勿論ハードがしてくれるなら歓迎だけど!」
「……。お前、黙っとけ」

頭が痛くなるようなことばかりほざきやがる。飽きるほど、慣れるほどコイツはそういうことを俺に言う。俺が無視しようが呆れようが、馬鹿にしようが懲りずに。やっぱりコイツは馬鹿なんだろう。

「はあい」

こつ、と軽い音がする。多分アイツの頭のアレが当たった音だろう。つまり離れる気がないらしい。いくら磁石だろうと、勿論俺には強硬手段に出るだけの力はある。使うとは言っていないが。そのまま正面に向き直って天井を眺める。他の奴らはどうか知らないが、何もしないのは一番面倒がなくていい。

「……優しいなあ」

多分独り言のつもりだろう。この距離でそれは無理な話だが。勿論コイツに、わざと聞かせるつもりだった、みたいな駆け引きみてぇなものは微塵もないだろう。そういうことは考えない。そうだったらとっくに引き剥がしている。

「んな面倒くせぇことするか」

独り言のつもりのない、独り言の音量で呟く。聞こえたかどうかはどうでもいい。確認すると面倒なだけだ。まあ、聞こえちゃいるんだろう。

「そういうとこ……本当に面倒なんだろうけど、結局俺のせいにしないとこがさ……あーうん、好き」

へいへい、そりゃどうも。