白黒的絡繰機譚

それが、例え光年の彼方に等しくとも

W5後、電子頭脳だけ回収されたサンゴッドがいる という設定。ぼんやり他SRN×5th匂わせ有り

『皆自由にやっているようだな』

見つめていたディスプレイに突如浮かんだのは、只の文字列だ。勝手に開いたウィンドウに表示されるそれに、どう対応したものかと思案している間に、

『君の声が聞きたい』

と表示されたので、従うこととする。密室に独り、声を出す。傍からは、夢想に励む愚か者のようにしか見えないだろうが。

「突然どうされましたか、……サンゴッド様」

この星の侵略に失敗し、この方の身体は失われた。かき集めたパーツと資源を不完全な設計図に沿って亀の歩みで組み立てているが、完成が果たして何時になるのか、そもそも完成するのかすら分からない。それでも、私に文字しか送れない電子頭脳のみの状態にしてしまっていることの罪悪感で押しつぶされそうなままでいるよりは、ずっと良いのだと、思っている。

『この状態だと手持ち無沙汰だから、皆の色々なログを確認してね。中々充実した日々を送っているなと』
「……私の監督不行き届きは重々承知していますが」

部下達には、多少の資源調達ノルマ以外は好きにさせている。彼らを監督するほどの余裕が今の私にはないからだ。その結果、何人かはあの忌々しい科学者のロボットと交友を深めているらしい。交友で済んでいない者も、いるようだが。

『別に責めるつもりはないよ。ただ、そう、私は君にこんなに負担をかけているのだと』

彼らと違い、私のログには作業報告しかない。

「違う……! これは、貴方様の意思も確認せず、私が独断で……私のために、貴方様を取り戻したい、だけなのです……」

叫ぶ。私はただ貴方を失いたくないだけだ。電子頭脳に給電しているのも、貴方が存在していると確認したいだけで、身体のない苦痛を考慮していない。
それを和らげるように、いやただ私が私を認識してもらいたい為に集音マイクを、カメラを設置して、貴方と話をしている。だが、貴方が自分から望まないのを良いことに発声用スピーカーは取付けない。
……私は、恐ろしいのだ。貴方の声が、文字以上の意味を持って発せられるのが。貴方に尽くしたいのに、報われないのが怖い。酷い話だ。酷いものだ、私は。

『アース、君がそう思ってくれているのなら、我儘だがやはり身体を取り戻したい。そうでないと、君を抱きしめることも出来ないから』

「それは……」
『文字のみだと、逆にややこしくなってしまうようだね?』
貴方が笑ったような、気がした。
……良いのだろうか。それは他に解釈の余地がないのだと、思ってしまって良いのだろうか。

「そう仰って頂けるのなら何も負担ではありません、サンゴッド様」

ああ、早く貴方の声をまた、向かい合って、聴きたい。