白黒的絡繰機譚

欠如こそ執心の要

ニトロ不在、ターボ+シェード

「あまり虐めてはかわいそうですよ」

私の声に、貴方が振り返る。平素と変わらず、読めない顔で。所謂ポーカーフェイスとは全く違う、ただそんな機能がないだけの、読めない顔だ。

「……。何の話かな?」
「素敵な人気者のスタントマンのお話ですよ」
「へえ。……なんでアンタが?」

おお怖い。顔の方は相変わらずだけれど、だからこそ怒りの感情が映える。無機質な身体に感情の乗った声、こういうのアンバランスなものを人間は怖がるのだ。最も、私は恐怖の側であって、何に恐怖するわけではないが。

「先日、吾輩の職場のショーに出演されたので。貴方がいじめるからでしょう? 吾輩を見るなり引きつった顔をして」

かの計画で用いたロボット達は、その記憶を消去して元の仕事に復帰した……と、表向きにはなっている。けれど、あの方の手が少しでも入ったロボットが元通りになれる訳がない。廃棄してなかったことにするより、大量のブラックボックスを見て見ぬ振りする方が有益だと判断されただけだ。その証拠に、彼のブラックボックスは結局こじ開けられてしまった。眼の前の、そう悪魔とでも彼が思っただろう者に。

「虐めてなんかないさ。大事にしてるからね」
「それはそれは。ああ、言っておきますけど、吾輩、彼とは話もしていませんよ?」
「ふうん、そう」

ああ、これは一切信用されていないな、と思う。かわいそうに、彼はこれをネタにまた虐められるのだ。お気の毒さま、と形だけ祈る。

「そんなにお好きなんです?」
「うん」

素直すぎる返事が返ってくる。まるで子供のような、裏表のない。けれど、貴方はそんな無垢な存在ではない。
悪の科学者の世界征服計画を子守唄に生まれた、正真正銘の悪のロボット。――私は、貴方をそう表現する。
力も富も、世界も欲してはいないけれど、自覚無自覚問わずその行動は全て悪に通じている。善人が当たり前のように他人を労るように、その反対を為す。貴方はそういうロボットだ。……勿論、そう告げたところで貴方は首を傾げて本心から「酷いなあ」とでも言うのだろうが。
そんな貴方だからこそ、彼を欲するのだろう。

「こんなに大事にしてるのに、仲間を見ただけで怯えるなんて酷いなあ」

事実を繋げて考えれば、そんな感想など出てこないだろうに。貴方は心底不思議だと言う風に呟く。
ああ、本当にかわいそう。悪はどうして自覚もなく正義を愛するんでしょうねえ?