全は一
ナパームが上機嫌だった。それだけなら何時もの事で、注目するような事案ではない。だが、その機嫌の良い状態が俺がやって来る前から継続していると判断できるのが問題だ。つまり、俺以外の何かに関心を奪われている。由々しき事態だ。「……機嫌が良いな」
「? ああ、同志と意見交換をしていたからだろう」
「同志?」
思わず聞き返す。するとナパームはこれだとタブレットの液晶をこちらへ向けた。
「……。成程」
表示されていたのはSNSと呼ばれるものの一種であった。同志とはここのユーザーの事であると分かる。どうも銃火器について語らっていたらしい。
誰の発言も文字数の限界を試しているのかと思われるほど多く、内容も随分とディープなものだ。
「いや、はや! 趣味趣向の近しい同志とも呼べる存在を見出すのが容易な世界で助かる」
ここは宇宙からするととても小さな星であるが、その中からすれば世界は広い、らしい。アクセス方法を増やせば、通常では小数点以下どころではない確率も跳ね上がる。そうして得た電子の出会いを噛み締めているのは喜ばしい、のだが。
「……ナパーム」
自己予想していたよりも、通常値から外れた声が出る。勿論それに気がつくナパームではない。
「お前が常々同好の士が、語らえる友人が欲しいと思っていたのは知っている。……だが」
これは、とても由々しき事態だ。俺の、俺という人格プログラムに存在しなかった筈の感情だ。
「まず、俺がいるだろう」
同好の士、友人、そしてそれ以外も全て、俺が選択肢の第一にして、唯一ではないのかと、俺はそのような意味を込めて、言っている。それが果たしてどこまで伝わるものか、伝わって良いものかは分からないが。
「マース殿が?」
「そうだ、俺ならお前の求める全てに対応する」
けれども、それは俺の偽りない想いなのだから諦めてもらう。俺は全てが欲しい、侵略者なのだから。
「しかし貴殿、以前に地球の武器にはあまり興味がないと言っていたように記憶しているのだが」
「……。それとこれとは、また話が別だ」
「別ではないような……?」
ナパームからすれば、恐らく同程度の熱量で語らえる同志を欲しているのだろう。俺も流石にそれくらいは理解している。だが、俺以外がそのポジションに収まるというのは我慢がならない。
「ともかく、まずは俺に全て話せ。それでは不足だと言うのならば存分にSNSで語るといいだろう」
なんという独占欲、なんという自分勝手!
「了解した。ではまず、SNSでも発言したのだが……」
だが、こうして素直にお前は頷いてくれる。さて、これから毎日忙しくなるだろう。お前が他者に目移りする暇なぞ存在させるわけにはいかないのだから。