白黒的絡繰機譚

定員1名永久予約席

ジャイロの足についての捏造設定有り

人間というものは、自分が出来るものは皆出来るものだと錯覚するらしい。勿論全てが、というわけではないが、そういう傾向があるとかなんとか。どこで手に入れたのかも記憶されてない、ゴミデータの一片のような知識。それの指す人間が、一体どこの星の話かも分からない。
――なんで今、そんな話を思い出したかというと、

「さっきからなんだ、その百面相は」

見下ろした先の、ポンコツが原因だったりする。
無言のまま動かない俺をどう思ったのかは分からないが、暫く様子を伺っているような素振りを見せたものの、また仕事に戻っている。ほんの少しの距離でも飛び上がって移動して、降下して立ったまま何かしらの作業をする。その繰り返し。
それが変に見えるのは、俺がアイツと違う構造で飛べるからじゃない。見ていたら分かる。間違っていないはずだ。アイツは、恐らく、いや絶対に――歩けない。
一歩も駄目なのか、それともメンテ毎に距離でも決まってるタイプなのかとか、そういうのまでは分からないが、そうとしか思えない動作をしている。
なんで今まで、気が付かなかったのか。アイツは絶対に自分からそんな事を言わないし、悟らせないようにするからなんていうのは言い訳だ。俺は、俺はずっと、見ていたはずなのに。
高度を下げて近づく。音は聞こえてるだろうに、こっちに視線一つ寄越さない。何時ものことだが。

「……おい」
「どうした? 悪いがこの通り仕事中だ」

知ってるよそれくらい。殆ど毎日、そればっかりじゃねえか。……それを知ってる俺は、殆ど毎日何をしてるのかってなるんだが。どうしてこうなった。
分からないけど、知っている。理解したくないが、覚えている。矛盾とエラーまみれの、ひどい話だ。

「そうだな仕事中だな。……なら、良いだろ」

別に邪魔するつもりなんざない。寧ろ逆だ。
振り返るより、手や足が出てくるより早く抱きかかえる。ポンコツだもんな、抵抗したところで脱出なんざ出来ないのは知ってるんだ。

「おっ、まえ……」

何かを言おうとして、飲み込んで。俺の意図は分かってんだろうに、お前ホントに素直じゃねえのな。俺が言うなだろうけど。

「……まあいい。ほら、次はあっちださっさと運べ」

不満げな声でそう指示する様は、慣れてない癖に慣れたように見える。お前ってそういう奴だよな。
想像していたよりも随分軽い、本当にこの羽で飛ぶことに特化した造りだ。今この体制だとちょっとばかし邪魔だがな。

「仰せのままに」

何にせよ精々使うといいさ。出来るのはお前だけだしな。