白黒的絡繰機譚

他見無用

メットレス・マスクレス描写有り

地球は変な星だ。能力よりも美醜に重きを置いて他者を判断している。そんなものを重視したところで得られるものなんてない……と、思っていた、が。

「……」

じ、と青い目が俺を見ている。それに反射している俺の頭部は、普段と違う。マスクはなく、バイザーもなく、口元も人工毛髪も全部露出している。全てのバランスをデータと比較していくと、この星では評価が高い造形になっている、筈だ。自分で言うことじゃないだろうが。
だから、その……ああ、うん、ハイ。一度でも想像した俺が悪かった。ある筈がないだろうが、コイツが、ジャイロが俺の顔を見て顔を赤くする、だなんて。俺を見下ろす顔は何を考えてんだかよく分からない無表情に近い。ただ馬乗りになって俺を見下ろしている。あっちも俺と同じくマスクもヘルメットもない。
なんでこんな事になっているのか? 別に深い理由も何もない。ジャイロが「そういやお前ってその下ってあるのか?」と俺のバイザーは指で弾きながら言っただけだ。そこから互いに外して今に至る。

「お前なあ」

ジャイロが無表情から呆れ顔に変わる。それに俺はようやく息を吐く。決していい感情を向けられている訳じゃないが、さっきよかマシだ。
しかしまあ、武装1個ないだけで視覚情報から得られる印象とやらは本当に変わるらしい。数文字の言葉を発するために動いた唇が、いい感情を向けられていないとの判断を塗り替えていく。

「ビビリすぎだろ。……しっかし、古代文明とやらの美意識は凄まじいな。無用の長物だろ」
「知らねえよそこは。まあ、良くて困るもんじゃないだろ」
「良すぎても困るらしいぞ? 俺には関係ないがな」

やはり俺には無用の長物らしい。地球は本当に変な星だ。わからない。お前のことも、俺のことも。
どんなに多方向から検証・検索しても、お前の顔は凡庸だと結果が出るのに、どうしてこう、体内温度が上がるのだろう。そもそも、美醜を基準とする判断なんか……ああ、そうか。

「お前、普段そうやって顔出したりするのか?」
「する必要あるか?」
「だよな。……まあ、ならいいか」

腕を伸ばして、人工毛髪に覆われた頭部を引き寄せる。そういえばこれも、地球ならではの方法か。
俺を作った何処かの誰かが何を考えていたのかなんざもう永遠にわからないが、結局はこの星と大して変わらないことを考えていたんだろう。

「俺だけにしとけよ」
「お前以外興味もないだろ」

どっちの意味か。どっちもかもしれない。
互いにこのためだけに露出した唇を重ねながら、ジャイロの言葉を噛み締めた。