白黒的絡繰機譚

carissimo

「可愛い」

さて、コイツの目はバグっているのだろうか。目じゃなくて言語系統かもしれない。とにかくどこかバグってるんだろう。そうとしか思えない。

「どこがだよ」

ぼそりとそう返すと、不思議そうな顔をする。少し前までは、俺もそんな顔してたような記憶がある。でも、今はもうそうする気も起きない。

「どこがって、全部ですよ? ウェーブの全部」
「俺はアンタのそういうとこ全部分かんないな……」

そう、俺の隣でさも当然みたいな顔で世迷言をのたまっているコイツは、どうも俺のことを可愛いと判断しているらしい。よりによって、俺を。
いや、普通に考えて絶対おかしいだろう。俺はそういう意図を持って作られたロボットじゃないし。外見も、性格もさ。勿論、コイツは地球の価値観で作られたロボットじゃないから、そもそも判断基準が違うという可能性もある。それでも俺がそれはおかしい、と言ったら自分でデータを参照して修正することくらいでできるはずだ。でも、コイツはそれをしないで可愛い可愛いと言い続けている。
意味不明すぎる。ほんと、なんで俺を?

「ウェーブはもしかして嫌、ですか?」
「嫌っていうか……。納得できない、みたいな」

一体どこがどうなって可愛い、なんて表現になるのか。それがわからない。なんてことを言うと、少し考えるような間があって、

「なら、もっと近しい表現にしましょうか」
「……?」

そう、言ってきた。
……近しい表現ってなんだ。可愛いは可愛いで、それはそれなんじゃないのか。いや、可愛いを文字通り言われててもそれはそれで困るし困ってるんだけど。

「いえ、ねえ。可愛い、が一番穏便だと判断してそれを用いていたんですけども、それならば。……というわけで、先程のだとウェーブのその無自覚でしょう一線引いてるけれど、結局私を遠ざけたりしないところとかを愛しい、愛らしいと思っての発言なんですよ。まあ貴方は全てがそのような感じなので、一挙一動全てが素晴らしい愛おしい可愛いんですけどね? となると私は本心から全てを愛するしかないなと考えながら口にしていたわけでして――」

なにを、いっているんだ、こいつは。

「ま、待って、待って……!」

意味がわからない。ちっともわからない。俺の何が何で何だって?!
わ、わからないけど、……こ、これだったら可愛いのが相当マシだ!