白黒的絡繰機譚

私は貴方にラベルを貼った

ウェーブの構造についての捏造設定有り

「意味がわからない」

あら、そうですかね。でも私の抱いた感情をラベリングすると、それになるんですよ。そう言うと、横の貴方は更に怪訝そうな顔をする。
そうやってすぐ顔に出してしまうところさえも、と続けたらもっと怪訝な顔をされてしまうのだろう。

「……まあ、何でもいいけどさ。それで、俺に言ってどうしたいんだよ」

それでも、貴方は私に問いかけてくれる。怒りもせず、右腕を振り上げることもない。貴方のそういうところを私は好んでいるんですよ、と言ったら流石に怒られそうなので言わないでおく。さて、返事をしなければ。一般論としては、と前置きをしてつらつらと並べあげる。
接触、触れ合い、コミュニケーション。言い方を変えても、意味は変わらない。要は身体を使う動作達の事だ。

「それならやっぱり、意味がわからない。……俺は一つも出来ないの、知ってるだろ」

ほら、と貴方は両手を差し出してくる。私のそれとは、人間のそれとは違う、攻撃の為だけのもの。挙げたどれもが私からは出来るけど、貴方からは出来ない。腕だけではなく口もそうだ。貴方に人間のような唇に舌、歯はない。只のチューブの通り道でしかないと、貴方は教えてくれた。見せられるものじゃない、と自嘲しながら。恐らく、貴方はそのようなことを他者に零すような人ではないだろうに。その事実が嬉しいのだと伝えたら、やはり怪訝な顔をするのだろうか。

「だろ? だからやっぱり」

貴方の呆れた声を食い気味に否定する。述べたのは一般論でしかない。勿論、したくないのかと問われれば否定するけれど、それよりもっと大事なものがある。貴方だって、知っているのでは?

「……わからない。俺は、わかりたくない」

コップから溢れた水のような、透明の言葉。最後のそれが、貴方の本音だ。
ラベリングするのを拒んでいるだけで、本当はもうゼロではなくなってしまっているもの。腕を、口を言い訳にして、見ないようにしようとしているもの。少し、指摘しても良いものか思案する。……ああ、どちらでも大丈夫だ。

「ネプチューン」

助けて、と言いたげに私を呼ぶ。ラベリングの責任を私に押し付けようとする、身勝手な貴方。私の愛した、可愛い貴方。
清濁併せて飲み干して、貴方の感情にラベリングをしてあげましょう。
それはもう愛情と呼ぶんですよ。お揃いですね。