白黒的絡繰機譚

お手軽殲滅計画書

「じゃあいっそ、全部壊してみます?」

数える必要のない、まるでカードのシャッフル回数のようなそれを聞いて、私は言った。
嫌いなら、要らないなら、全部壊してしまいましょう。そうしたら貴方の急降下したご機嫌も、直ってくれるでしょう?

「全部?」
「全部。貴方の気に入らないものぜーんぶ」

まるで子供の夢物語みたいな提案。ま、お相手が実際子供なので何も問題はない。ただ、私達は夢物語を実現できる頭脳と能力と仲間がいるのが、厄介と人は言うのだろうけれど。

「へえ、いいジャン。いつ? いまスグ?」
「お待たせすると、貴方飽きちゃいますからねえ。歩きながら考えて、そこらの誰かを捕まえて巻き込んじゃいましょう」

立ち上がって、彼の手を引く。するとそれを嫌がるようにひょいひょいと華麗に私の背中に抱きついた。何時もの、可愛い仕草。

「何処から行きましょうか。世界って結構広いですからねえ」
「んー……今のキブンは海? クジラもイルカも全部クラウンマン様の子分にしてやるんだ」
「となると南国ですねえ……。フロストマンはちょっと動員できないですね。他のDWNの適当なの捕ま……ご協力を願いましょうか。あ、確かちょっとペンギンみたいなのいませんでしたっけ」
「いた気がする!」

楽しそうに弾む声。機嫌が良くなっているのなら万々歳。そう延々と散歩をしながら話をして――。

「……なんか飽きた」
「おや残念。じゃあここらでお茶にでもしましょう」

楽しいシンキングタイムは、此処でおしまい。やはり世界征服より、甘いお菓子とジュース。可愛い私の、小さな暴君。
では続きはきっとまたいずれ。恐らく遠くないうちに。だって貴方の機嫌は何時だって乱高下なのですからね?




「お前、いつも宥めに使ってるアレ、結構ガチだろ」

ある日また同じことをしていた時、一部始終を見届けたパイレーツマンが私にそう言った。
呆れた顔をしている癖に、何だかんだでよく見ているんですね。言ったら面倒な事になるでしょうから、そんな茶々は入れませんけれど。

「そりゃそうでしょう。あの子は結構鋭いですから、生半可な気持ちでお話したら気づきますもの」
「……お前、相当イカれた事言ってる自覚あるか?」

酷い言われようですこと。でも、一言一句本心だから仕方ないでしょう?
私は何時でも、本当に全部壊してもいいと思ってるんですよ。あの子が望むならそれくらい、ねえ。