夏秋深まり冬見える
日が傾いてから落ちるまでの時間が短くなってきた。知識としてはあったが、体験するのは初めての現象だ。季節も時間も、別に気にする必要は一切なく、そんな暇もなかった。それが今はどうだ。別に興味が湧いたわけじゃないが、暇なアイツが言う機会のない植物の説明をしてくるもんで、意識してしまうようになった。
それでも、説明の内容なんてどうでもいいと思っている。それよりアイツが、一体どんな顔でそれを学んだかの方が気になった。聞こうとは思わないが。どうせそんな泥臭い事、言ってくれやしない。
「こういう中途半端な時間が一番困る」
作業の手を止めた奴がそう零す。夕方よりも夜に近づき、閉園時間も間近だ。
「何時だって困ってんだろ。客来ねえし」
返事はなく、メンテ用の道具を片付けて地上を目指す。追って降りると、植物が影になるせいで上よりも随分暗い。照明もケチってるしな。
「ジャイロ」
現在時刻的には夕方、実際は殆ど夜。閉園時間はまだだが、入場は締切済み。中途半端な、なんともし難い時間。目の前のコイツが、一番持て余す時間だ。そして俺には――貴重な最後の時間。
「お前はもう帰る時間だろ」
まるでガキ相手みたいなことを言いやがる。いつもどおり、余裕そうな顔で。言い返してやりたい気持ちがないわけじゃないが、ここは飲み込む。
それより大切なものがある。まるで馬鹿げた作り話みたいに、逃げるものを捕まえるための。
「帰んねえよ」
片手を掴む。
反撃が来る前に身体を抱き寄せる。手の道具箱はこっちで引き受けておくのが肝心だ。落とすと、それを責められて逃げられる。
「……へえ、今日は随分反抗的だな」
まだ余裕そうな顔で笑っている。まあ、これくらいで崩れるような奴じゃないのはとっくに知っているが。
「お前こそ」
日は落ちきって、ガラスから差し込むのは月と星だけになった。閉館アナウンスは聞こえてこなかったから……やっぱりそういうことなのだろう。
「帰って欲しくなかったんだろうが」
中途半端を持て余した、中途半端な意思表示。俺を試す暇つぶし。いいさ乗ってやる。それでお前を連れ帰れるなら。