白黒的絡繰機譚

ひどいひと!

面倒くせぇと思うことすら面倒になってきている。
それだけ馴染んでしまったのか、他に何かあるのか。考えても仕方がねえし、面倒くせぇ。

「ハード、ねえ」

次に何を言い出すかなんて、真面目に聞くのもアホらしい。喉乾いてないか、だの、肩こってない? だの、ろくでもねえことばかりだ。俺たちゃロボットだろうが。そういう人間の面倒なところを排除して作業させようってモンだろうが。

「ちょっとハード、聞いてるー?」
「……」

返事すら、だ。そもそも、俺がどう返そうと最終的な着地点は変わりゃしねえ。別に怒ることもなく、マグネットは俺の隣に座る。だからお前距離が近ぇんだよ。更にそれをつめてこようとすんな。

「ハードってば冷たいんだから」
「……思ってもねえくせによ」

俺が返事をしたのが予想外だったのか、間抜けな面を更に間抜け面にして見上げてくる。

「本気で冷たくしてやろうか?」

今日の俺は、どうもイカれてるらしい。人間の面倒くささに似た何かが、腹の中にある。
プラスとマイナスか、それともマイナスとマイナスなのか。とにかく何かとなにかが反応して、碌でもないものを産み出したのだけは分かる。

「ハード?」
「マグネットお前、俺に絶対に言われたくねえと思ってること、あるだろ」

言われたわけでも、聞いたわけでもない。けれど、知っている。ベタベタしてきて、勝手に世話焼いて、喋り倒していくコイツの、けれど誰にも触らせようとしない部分。
何で知ってしまったのか、気がついてしまったのか。分かったら面倒は起こらねえんだよな、こういうのは。

「ハード……!」

マスクで殆ど隠れていても分かる、焦り顔。
……コイツには、あんまり似合わねえな。普段の碌でもねえ面の方が万倍マシだ。

「……止めた。面倒くせぇ」
「えぇ? ……ハードらしいけど、さあ」

ずるずると床に落ちていくのを笑い飛ばす。
――面倒くせぇのも本当で、知っているのも本当だ。コイツは俺に「近づくな」と言われたくない。嫌われるより、それが嫌な奴。変な奴だ。俺を好きなくせに、好かれなくてもいいと思っていて、嫌われても近くにいることだけは許して欲しいと願っている。……本当に面倒な奴だ。
言わねえよ、それだけは。お前に近づくなとも、嫌いとも、俺は。