白黒的絡繰機譚

神ではなく、信徒ではなく

「ご冗談を」

らしくない、上ずった声だった。予想はしていたので、別にどうということもない。
私達には破壊しかないと思っていた。けれど、どうだ。これはきっと破壊とは遠いものだ。

「冗談だったら良かったかね」
「……」

意地の悪い言い方をした自覚はある。けれど、こればかりは君が悪い。笑っていると受け取られるような顔を作りながら、返事を待つ。君は理解しているだろう、答えなければ逃げられない。まあ、答えたところで逃さないが。

「……貴方様が仰るには……あまりに俗な言葉だと」
「俗、か。君からすればそうかもしれないな」

逃げたい、と君の全身から声がするようだ。けれど私は逃がす気がないし、君は思っても行動に移せる個体じゃない。視線すら外せず、指一本動かすことすら出来なさそうだ。かわいそうな子。
私と同じように、あの小さいが勇敢な戦士と出会った筈なのに、変わらなかった、かわいそうな子。
だが、それが君だ。

「けれど、破壊も愛も大して変わりはしない。どちらも一方的な行動と感情だ。卑しいし、けれど普通のことだ。確かに俗だね。……なんて、君は言ってほしくないのだろうけれど」
「……」
「アース」

かわいそうな子。私を神のように思っている子。自分を私から遠く離れたものだと思っている癖に、自分も他とは違うのだと思っている子。

「私は、君を、愛しているんだよ」

君の身体を引き寄せる。

「君と同じなのだから、安心しなさい」
「ちが、……私は……」

抱きしめて、逃げないようにする。君が逃げる訳はないのだけれどね。
潔癖症の、高潔な君が逃げない。その意味は一目瞭然なのに、どうして否定をするのかい? なんて、意地が悪すぎるから言わないであげるけれど。

「私は……貴方様をそんな……目では……」

見ている癖に、かわいそうな子。私を神聖視するあまりに、なんにも見えなくなった子。かわいそうだから、愛おしい。
君は神だと思っているけれど、私は絶対に神などではないよ。君を愛しているのだから。神ならば、そんな感情は持たない、そうだろう?

「……サンゴッド様」

懇願するような声に、思わず口づけた。望んでないだろうけど、君が望んだことだよ、アース。