白黒的絡繰機譚

二人だけで行こうね

「へえ、そこ、興味あるの?」

右肩への突然の負荷と、マイクロフォンへの振動。つまり俺の肩に顎を乗せて先程の声をかけてきた人物がいる。不本意ながら声の主には心当たりがあったので、見ていたスマホから目を離すことはしない。

「……まあ、そのうち行こうかなと」

液晶に表示されているのは、スタントクラブメンバーの一人がやっているSNSのアカウントだ。俺達は仕事で散々乗り物と触れ合ってるくせに、プライベートでもべったりだ。つまりツーリングの様子を延々と投稿していることが多い。それを眺めながら最近走ってないな、などと考えていたらこれだ。俺が走れてない原因トップというかコイツしかいねえ。

「そう。いいね」
「……まあ、そんな時間取れないんですけどね」

アンタのせいでな、とは言わないでおく。言ったが最後、オフどころか仕事の予定すらキャンセルする羽目になりかねない。

「そんなにスケジュールが詰まってたかい?」

もう一度言葉を飲み込む。別に暇をしてるわけじゃないが、ブラック労働しているわけでもない。アンタのせいだよアンタの。
……まあ、恐らくこの人は分かってて言ってる、と思う。キャラを作っているんだ。俺の前で今更そんなことしたって無意味だと思うけど。

「長期の休みはないですけども、普通ですよ普通」
「そう」

もう興味は失ってくれただろうか。体勢がキツくなったとかでもいい。とにかくどっか行ってくれないか。液晶をタップして表示を消す。これでおしまい、終わりですという遠回しな意思表示。

「じゃあ今度の休みはそこ、行こうか」
「……はい?」

思わず乗ってる頭をどかして、振り返る。いつもどおり読めない顔が俺を見下ろしていた。
何で、そんな――まるで普通に友人や恋人みたいな――ことを言い出すんだ。俺達ってそうじゃないだろう。アンタから始まって、アンタで終わるだけの、何かもっと別のものの筈だ。

「行きたいんでしょ?行動は早い方がいいし、君がもしそれを誰かにこぼしたら、すぐ予約で一杯になっちゃいそうだからね」

どうして、どうしてそんな風に言うんだ?
俺達はそうじゃない。俺はそう思ってるし、アンタだって、俺を都合のいいもの以外に思ってるわけないじゃないか。

「約束だよ、ニトロマン」

なのに、なんで、嬉しそうに、大事なものみたいに言うんだ。