白黒的絡繰機譚

それで充分

分かるよ、分かってる。当たり前だ、そういうものだ。想定通りの、正常運転。ご覧の通りの結果は、寧ろ上々の部類だって、知ってる。それでも、だ。

「……面倒くせぇことになってんな」

無事再起動したハードは、俺を見てそう言った。うん、そのとおりだ。
博士でなく、スパークでなく、スネークやジェミニでもない。ここにいるのは俺唯一人。

「大丈夫? 変なとことかない?」

でも、敢えて無視して普通な言葉を吐く。多分バレてるんだろうけど、多分なんにも言ってこないはずだ。だってそうしたら、面倒だもの。

「ねえんじゃねぇの。……どうせお前が何度も確認したんだろ」

呆れてるような、そうでもないような。声色はともかく、言ってることはとっても鋭い。読み飛ばしたくなるような数値を全行キッチリ見て、その上ではなんにも問題ないことはよくよく分かってる。それでも、やっぱり本当に起動するまでは不安だったんだ。
――元工業用が多い割に、潜入だの襲撃だの結構面倒で荒っぽい任務が俺達にはよく割り当てられる。今回もそうだった。俺は現場に能力が不向きすぎて待機だったけど。戦闘なしで終われれば勿論良かったんだけど、計画書の時点でまあそれは無理だろうなってのはみんな分かってて。でも最低限の被害で済みますようにって。
俺達は壊れても直せるけど、でも壊れたくないし壊れて欲しくない。

「それくらいしか、やることなかったからねぇ」

だってハードが文字通り身体張ったから、みんな無事だったんだもの。最低限の被害だね、凄いよ。分かってる、本当に。でも、俺にとっては致命的な被害なんだ。重たい感情、ハードは嫌いだろうな。
みんなで抱えられるようになったハードを見て、叫ばなかったのは幸運だ。マスクにもこれほど感謝したことはない。そしてそれを綺麗に短時間で元通りにする博士にも。
俺はただ、見ていただけ。少しは手伝ったけど、でも何もしていないのと同じ。

「……マグネット」
「あ、博士とみんなに再起動したよって言わないとなぁ。みんな心配して――」
「マグネット」

腰を上げようとした俺の頭をハードが掴む。立ち上がることも、首を背けることもできない。
目を合わせたくないのに、合わせるしかない。

「んな顔するくらい、心配したんだな?」

尋ねるんじゃなく、断定しているみたいな、強い声。いつもどおりの、ハードの声。
……うん、そうなんだ。ひどい顔でしょ。ずるい聞き方だなあ。でも、そういうとこも、好きだよ。