白黒的絡繰機譚

そこからおちてくればいいのに

メットレス描写有り

「キスして」

キス。スキンシップの一つ。親愛、友愛、とにかく何か愛を表すための行動。
あまりにも、あまりにも俺達の間に不必要な行動を強要されている、と理解するまでに数秒必要だった。
恐らく今、お互いの表情の対比がものすごいことになっていた。お互い目しか表情出るところがないけれど。

「……拒否権は」
「あると思った?」
「聞いただけです。知ってた知ってた……はあ」

これ見よがしに溜息を吐いたところで、申し訳なく思ったりする相手じゃないのは知っている。図太いというか、なんというか。
まあ、簡潔に言うならこの人は悪魔だ。悪の帝王の手先の、悪魔。そんな感じ。

「キスは嫌いだったかな」
「行為自体は、まあ、別に? 相手と俺からってのが問題ですかね」
「そう。自分からが……なら、想像してたより初心だったか」

相手の部分を見事にスルーしやがった。あとなんだか嬉しそうなのはなんでだ。別にアンタ以外にも経験はある。勿論役者としての仕事は除いて。そもそもスタント専門なので、顔出しはしてない。

「冗談だよ。君は他者に好かれるもんね?」

そうですねアンタみたいなのにも何故かね!
……と言いたい気持ちを飲み込む。駄目だ、悪魔の言葉に耳を貸してはいけない。創作のルールだ。

「さてどうでしょう。ま、アンタよか場数は踏んでると思いますけどね。そうじゃなくてほら、口があるの俺だけでしょ」

フルフェース型ヘルメットのロックを外す。それを持ち上げて現れるのは、人間を模した頭部だ。製作者もどうしてわざわざ用意したんだか。ま、バイクと人は別であるべき、と変形じゃなく分離型にしたんだから、そういう拘りの上のことだろう。
一方俺が乗っかってるこの人、ターボマンは人型ではあれど、人とは程遠い構造をしている。口はないし目だってモニターだ。
そう作ったのなら、人間と同じ欲求なんざ抱かせないように作りゃいいのに、と内心悪態をつく。ああ、でも、そんなことは出来ないのかもしれない。俺達の見本は、いつだって人間だ。

「アンタからしてくるんなら、一方的だって受け流せますけどね」
「一方的なんて寂しいだろ。偶には君からのアクションだって欲しいさ」

まるで恋人同士みたいな言い方をする。そんなもんじゃないだろ俺達は。最初から最後まで、アンタの一方的な押し付けだ。
交わらない、永遠の平行線。ロボットと、悪魔みたいなロボット。似てるようで違う、違わないと困る。

「ターボマン」

キスをする。人であれば口があるだろう場所に。名前を呼んで、キスをする。一方的なそれは、まるで俺が片思いしているようで――酷く滑稽だった。