白黒的絡繰機譚

貴方と一緒に夢を見る

「浮かない顔だね、クリスタル」

このところ碌でもない夢ばかりを見る。それから覚めた私に、彼は憂いを帯びた顔でそう言った。

「そう見えますか」

ヘルメットとマスクで覆われた私の顔を、どうしてか彼は何時も正確に読み取ってしまう。
職業柄、表情というのは一種の武器だ。言葉と組み合わせて目の前の人間を導き、欺くもの。意図して、私の意思で作るものの筈だというのに。
私の瞳はそんなにお喋りなのだろうか。彼の前限定で。

「うん。君がうたた寝なんてする、無防備な姿を見れたのは少し嬉しいけどね」
「貴方はいつもお上手ですね」
「君ほどではないさ。……君のそれを晴らしたいんだけど、どうかな。僕で力及べばいいけど」
「つまらない話ですよ」

今の言葉はあまり良くなかった、と言い終わってから思う。差し出された手を上手く掴めないのは、私の悪い癖だ。

「君の話につまらないものなんてないよ」
「そう言うのは貴方だけですよ、スター。ただ少し、面白くない夢を見た、それだけです」

ある夜は、崩れていく階段を必死に登っていく夢を見た。いつかは、私が消えてしまう夢を見た。
それ以外にも戦い続ける夢、失う夢、目覚めない夢……とにかく、あまり気分の良くない、突飛だけれど現実感のある夢を、代わる代わる見続けている。
ロボットの夢なんてナンセンスと非科学の塊のようなものだけれども、そもそも元になった人間からしてそうなのだから致し方ない。

「……まあ、夢なんてそんなものですけれど」

私が苦笑したところで、彼の眼差しは揺るがない。
――以前は、この眼差しが苦手だった。所詮作り物の私と違うのだと思い知らせてくる、澄んだ瞳だから。

「分かっているんです。何から生じた夢なのか、なんて、とっくに」

階段の上も、伸ばした指先も、戦っていた相手も、失ったものも、全部が同じだった。夢なのに、はっきり覚えている。

「私は、貴方との終わりばかりを考えてしまう」

夢が覚めるように、終わることを恐れてしまう。
登り続ける運勢など有り得ない。皆等しく頂上があれば必ず下る時期が来る。私はきっと誰よりもそれを見て、見せつけられて、痛感してきた。

「大丈夫だよ、クリスタル」

優しい彼が、私の手を取る。

「僕だって、君と同じだ。君を手放す気なんてないのに、手が離れてしまう事を恐れてる。大丈夫、君だけじゃない。僕たちは同じことを思ってる」

だから大丈夫だと、彼は笑う。彼が笑うと、何故こんなにも安心できるのだろう。夢を見てもいい。そう思えるくらいに。