白黒的絡繰機譚

天邪鬼

――随分とまあ、強く頭を打ったようで。
皮肉たっぷり、大根役者みたいに言ってやったというのに、目の前のコイツは数分前とは真逆の見たことのない表情で、

「俺の心配をしてくれるなんて、優しいな」

なんてほざきやがった。
ことの発端は、まあいつもと大して変わらない。煽られて、無視して、ムキになって以下略。普段と違ったところは、お互い手が出たぐらいか。その結果があれだ。スペック自慢してくる癖に、木の幹にぶつかった程度で誤作動されたらあんな台詞も出るのも仕方ない。俺は悪くない。

「ジャイロ」

聞いたことのない、柔らかい声だ。そもそも、お前俺の名前を呼んだことあったか?
いつだってプロペラを筆頭に罵倒語ばかりだった気がする。ま、こっちそう来るならと同程度で応対してやったが。お客様は神様だとか言うけれど、コイツは客でも神でもなんでもないので、営業用の対応マニュアルなんざミリも関係ない。

「……あー、お前の再起動用のスイッチどこだ」

恐らく、一時的に電子頭脳の性格フィルタがイカれてるんだろう。自立思考型がらしくない言動をする時は大抵これだ。
老若男女、どんな設定をしようとこれがイカれりゃドイツもコイツも言うことに殆ど変わりがなくなる。ある意味ロボットの精神の根幹はこれなのかもな。

「再起動? ……ああ、俺がおかしいって?」
「自覚ありなら自分でどうにかして欲し……おい」

近づいてきた手を払う。殴りかかるでもなく、ただ触れようとするようなそれは、絶対におかしい。
いくら性格フィルターがイカれたって、出力されるイエスとノーが反転するわけじゃない。言動と行動がノーでしかなくても、内部ではしっかりイエスが出力されている。

「ジャイロ」
「さっきからなんなんだ。スイッチの場所をさっさと言え」
「別にもう一分もせずに勝手に再起動する」
「そりゃまあ、ご自慢どおりの高機能だな」
「ジャイロ」

見上げた顔は嬉しそうな、楽しそうな、それ以外のような見たことのない顔をしている。これが根本からバグってるのではなく、本当にフィルターが外れているだけだとしたら、もしかしてコイツは普段からこういう顔をしてたのだろうか。

「きれい。かわいい。すき」
「……は?」
「好きだ。だから、話がしたいし触れたい。……ジャイロのことだけを」

その言葉は、もしかして普段フィルターを通しすぎて全く違う言葉になっていたのかもしれないだなんて、……ああ、流石に考えすぎだ。
だが真相はきっと、数十秒後のご本人様が教えてくれるだろうよ!