君じゃなきゃ駄目なんだよね!
「なんで俺なんです?」何の変哲もない天井を見上げながら呟いた。
何の変哲もないのは天井だけで、俺の身体は……出来れば自分でも見たくない有様だ。
「君しかいなくない?」
視界の外から返ってきたのは、そんな軽い返事だ。別に真面目な、理屈の通った回答なんて、この人に求めちゃいないけど。
そもそも今のシチュエーションが真面目とは程遠いのだし。ああ、でも遊びだの不倫だのってこういう隠れて他人に見つかるかもしれない場所でやってしまうことも多いのだっけ?
「そりゃ、アンタの正体知りつつどこにも漏らさないで都合よく扱える存在なんて希少かもしれませんけど? なら余計俺じゃなくていいでしょ」
やっと復帰した、元と変わらない仕事もポジションも全部捨ててまで、この人――ターボマンの事を告発なんかできる訳もない。正義の役をどれだけ演じたって、俺の中身自体はこんなもんだ。
正に演技、いや俺の場合は別に台詞があるわけでもないから、それすらしてないのだろうか。
「んー、それもあるんだけど」
あるのかよ。声には出さなかったが思わずツッコむ。顔の造形もあるけれど、何を考えてるんだかイマイチ分からない人だ。
いや、イマイチどころか――この人を分かる日なんて永遠に来ないんだろう。そんな日が来るとしたら、きっと俺は俺じゃなくなってる。
「同じ景色を見れる方がいい。俺が連れて行ってやらなくても、自力で来れるなら尚更いい。そんなの君しかいないだろ、ニトロマン」
「……お褒め頂きどうも」
首を横に向けると、やっぱり何を考えてるのか分からないターボマンがいる。
自分だけ前後で様子が変わらないのだから、身勝手だと思う。こちとら予定外のエネルギー消費に、洗浄と自己メンテまで追加だ。
「でも、それも俺の理由にならなくないです? アンタのとこ、いるでしょ、ピッタリの」
ほら、あの速くてどうのこうの。……とまで言わなくても分かるだろう。
流石に怒っただろうか。面倒なことばかり言う奴だと思っただろうか。できればそうであって欲しい。そうしてあわよくば、この関係が終わってくれないか、なんて思っている。
「ニトロマン」
……おかしいな。微塵も怒ったり呆れたりしてるようには聞こえない。寧ろ、これは……そんな。
「君のさ、そういう悪あがきする癖に本気で逃げないところ、俺は気に入ってるのさ。……絶対離してやりたくない程、可愛いね」
天井が見えなくなる。考えの読めない顔が、今だけは分かってしまう。
何をしようと、何を言おうと。……この人に嫌ってもらうのは、開放してもらうのは無理なんだと。