変化を愛と名付けよう
「お前のことを、この星の言い方をするならば……愛している」場がしん、と静まり返る。そもそも、此処――奴の自慢の博物館――は何時だって静かなので、通常通りではあるのだが。
「マース殿」
俺の目の前にいるナパームが、普段と変わらない声で俺の名を呼んだ。
動揺をしているようには見受けられない。当たり前ではある。
「何故そのような結論に?」
「お前が毎日のように、俺に愛を告げてくるうちに、……要は感化されたということだな。そういう始まりもあると聞いた」
「ううん?」
ナパームは目を瞬かせて、何やら考え込み始めた。その姿を思考回路が愛おしいと判断するのだから、俺は相当やられている。
「……つまりマース殿は、俺が貴殿の武装を褒めるのを、愛と認識した?」
「それ以外に俺達の間に何かあったか?」
毎日のように何故か近くにやってきて、武装を褒めそやし自身の博物館へ収蔵されて欲しいと懇願される。ルーチンの如く繰り返して、今日に至る。
無限ループする、プログラムミスのようなそれが変化したのはどうしてだったか。これだ、と断言できるような情報は落ちていない。けれど、コンマ以下の積み重ねが部品を劣化させるように、それは確かに起こったのだ。
まるで生物のようだ。生物とは程遠い俺達だというのに。
「恐らくない。……ないからこそ、どうして……ううむ……」
「ナパーム」
こういう時だけは、己の手に換装パーツを用意すべきだと反省する。手を取る、という行為がお互い出来ない。
けれどそれに近い形をとることは出来る。傍から見たらどう映るか、などというのはどうでも良いことだ。
「お前は、俺をどう思っている?」
「素晴らしい、最高の兵器だと」
お前が俺をそう評する声は、何時だって澄んでいる。
幾多の日々でそれを聞き続ければ、まるで生物のように、部品の劣化のように変化もしよう。
戦闘用にあるまじき、だがしかし、全てがこの愛の前には些細なことだ!
「俺達は戦闘用だ。自身ではなく、他の相手を最高だと称せるのは、愛なのでは?」
また、ナパームが瞬きをする。
お前は理解出来る筈だ。俺の愛は、お前の愛と同じだろう?
「そう……そうなの、か? いやしかし……だが、確かに……?」
「ああ、俺達は互いに愛し合っているのだ」
手を取り合えなくとも、口づけを交わせなくとも、俺達の間には確かなものがある。
ナパーム、お前を俺は愛している。お前も俺を愛している。ならば、答えは一つだ。
「そう……そうだったのか!」
ああ、これで俺達は両想いというやつだ!