白黒的絡繰機譚

それが答えさ、と微笑んだ

「オーケー、まず確認しましょう」

眼前の圧に唇が引きつる。口元を露出しない型はこういう時に都合がいい。とはいえ相手にすると、何を考えているのかわからないのだが。
こうしてメリットとデメリットを同時に痛感する機会も中々ない。どちらかというと天秤はデメリットに傾いているのだけれど。
だってこの人――ターボマンの表情を読める人なんてそうそういないだろう。

「確認なんて必要ない」
「いやいや、最終確認は大事ですよ? そういう慢心が悪い結果を残すってのは、お互い身にしみてるじゃあないですか」

早口にならないよう気をつけて台詞を吐き出す。不服そうだが、ほんの少し圧が弱まったのでよし。
この人は縦も横もあるから、とにかく近いと威圧感があるんだよな。別に俺はそんなに……多分小さいわけではないと思う。相手がデカいだけだ。

「アンタの主張は『俺達は付き合っている』俺の主張は『付き合ってない』で間違いないですよね?」
「俺は合っているが、お前は間違っているだろう」
「主張の内容じゃなくて。ああもう、話が進まない。根拠! 主張の根拠を出してくださいよ!」

思わず叫ぶ。これで人が来たらどうしようか。有耶無耶にできるという点では来て欲しいし、噂になるという点では来て欲しくない。
残念なのか幸運なのか、人が来るような気配は扉の向こうに感じられない。二人には広い、共用のロッカールームで酷い主張の繰り広げ合いを続けなくちゃならないってわけだ。

「寝ただろう、何度も」
「ありましたねそんなことも。でも双方合意の上では決してなかったし、そもそも寝たら付き合ってるなんて、人間でも言わないですよ」

そもそもロボット同士に肉体関係もクソもあるんだろうか。その辺りを気にしても不毛か。俺達はどうやっても、人間を基準にすることから逃れられない。
だとしても、自分に碌な返事もさせずに好き勝手した相手を付き合ってると思い込むもんか。もしかしてこの人の頭の中では、俺が何かアホみたいな台詞を言ったことにでもなっているのだろうか。なにそれこわい。

「呼び出したらちゃんと来るな」
「無視したら撮影所に突然乗り付けてきたからなんですけど。マジで困るんで」

あれはもう肝が冷えた。いや、この人恐ろしいほどに外面が良いから、誰一人として文句なんて言ってなかったんだけれど。それもそれで本当に怖い。
……そう、外面は良いんだ。俺だってあんな――ロボットエンザからの世界征服加担――なんてなけりゃ、今でもいい人だと思っていたかもしれない。
その外面をどこかに投げ出して俺に手を出してるのは、ある意味正直者なのかもしれない。そんな正直さとかクソ喰らえだが。遊びなんだろうからせめて騙せ。

「それと……ああ」

また近づけてきた顔というか目が、歪むように笑う。経験で知っている。これをする時は、碌でもないことが起きる。今更だが。

「俺はお前を好きだし、お前もそうだろう?」

耳元で注ぎ込まれる声に抗議をしようとしたが、台詞が引っかかって出てこない。
なんで、どうして。遊びでしょこんなの。付き合ってるって言い出した時点で何かおかしいなって思ったけど。アンタなんて言った?
俺を好きだって、おかしいだろう。アンタはいつも好き勝手するばかりで、俺のこと見てるかすら分からないのに。なのにどうして自信満々に、そんな、どうして。

「さて、お前はどうする? 根拠を述べるか、……それとも、俺の意見を認めるか」

頭の中はまだぐちゃぐちゃで、どっちも出来そうにない。つまりはこの人がこれから好き勝手するということで、俺の今夜以降予定は全部パーだ!