白黒的絡繰機譚

恋なんて


「お前の初恋は何だった?」

また変なことを覚えてきたな、と思った。罵倒するのは簡単だが、ムカつく事に暇なので考えてやってもいいだろう。仕事はあっても、ルーチンだけじゃどうしても暇という感情は消えない。
――そもそも、恋とは何か。
恋ってのは特定の相手を思い慕うことだろ。それくらいは知ってる。まあ、検索して出てきたまんまの言葉だが。これを見て思うのは、つまり恋とは片思いなわけだ。相手を想うだけ。相手がどうなのかはノーカウントだ。それなら、俺の答えはこれしかない。

「恋したことなんてない」

口にして、様子を窺うがどうにもおかしい。俺に質問をしたコイツ、ジュピターはどう考えても俺がこういう答え――はぐらかさずに簡潔――しかしてこないことを知ってる。ならそもそも聞くなと言いたいが、コイツは稀にこういうアホみたいなことをするのでまあ今更だ。しかし、じゃあなんで微妙に青ざめているだか、検討もつかない。

「どうした?」
「……。……なんで考えた?」
「は? ……ああ、お前俺が即答すると思ってたのか」

成程。ちゃんと考えてやったのに酷い奴だ。変に勘ぐるのが悪い。

「恋ってのは片思いだろ」

俺の自論を述べると、ジュピターは一瞬呆れたが、納得はいったらしい。
ほんとそれなら最初から聞くんじゃない。まさか、万が一だが、お前だとでも言って欲しかったのだろうか。そりゃ無理ってもんだろ。

「……」

今度はあっちがなにか考え込んでいるらしい。さっきから忙しそうだなお前。

「つまりお前は」

ようやく動き出したジュピターが不満そうな声を出す。そればっかりかお前は。

「俺が、お前に好きだと言う前は……マジでなんとも思ってなかったと」
「そうなるな」

恋なんてしたことないんだから。
応えがあるかも分からない、ただ一方的な気持ちに身を焼くような思いなんて、俺はしたことがない。
お前は……どうだろうな? どこまでの、どれほどの気持ちで俺を想っていたのだろうか。聞いてみたいような、恐ろしいような。

「……お前のそういうところなあ」
「嫌いだって? 説得力が皆無だな。……まあ、そう凹むな凹むな」

恋なんてしてたことない。するはずがない。する必要がない。だって、

「お前が恋してくれたから、俺は初恋なんてしないんだよ」

ジュピター、お前が始めてくれたから今の俺がある。勿論言ってなんてやらないが、な。