白黒的絡繰機譚

寛厚なんて君/お前だけ

「食事。行きたい所あるんだよねぇ」
「却下。お前の行きてぇとこってのは、大抵味が薄くて量がねえ」
「買い物は? モールふらついてさあ」
「どっか行ったお前探すだけで一日が終わるわ」
「じゃあ運動。プールとかどう?」
「喧嘩売ってんのか?」

じと、と俺を睨みつけるとハードはまた動かなくなってしまった。もうお喋りは面倒だって、全身からにじみ出てる。こうなっちゃうと、ホント動かないからどうしようかな。
別に、どこに行くかはあんまり重要じゃない。俺がただ、ハードと出かけたいなあと思っただけの話だ。結果はご覧の有様。そうだよねえ、相手が相手なんだから。面倒な奴だって思われたかなあ。そうだったら、嫌だなあ。
面倒な奴なんて、ハードが一番嫌いな奴だから。俺はハードのことが大好きだから、ハードの嫌いなものにはなりたくない。

「……うん、ごめんねハード。俺、部屋戻るね」

慣れない提案なんてするんじゃなかったなあ、と思っても後の祭り。返事なんてないのを分かってるから、言うだけ言って立ち上がる。

「面倒くせぇ」

背中にその一言が刺さる。
本当にね。自分でもそう思うんだから、相手側は相当だ。だから早く出ていかなくちゃ、と足を踏み出すけど、動けない。

「!」

突然腰を掴まれて引き倒される。
やっぱりハードは力が強い。でもちょっと強すぎて腰痛くるかも……と思わなくもなかったり。

「ハード……怒った?」

そろそろと振り返る。ハードはいつもどおりの顔だ。つまりよくわからない。

「お前、なあ。怒るなら、お前の方だろうが」
「俺が? なんで?」

だってハードを不機嫌にしたのは俺だ。どこかに俺の怒る要素なんてあったっけ? 首を捻っても全然出てこない。

「……クソッ、これだからお前は――いや、何でもねえ。いい、付き合ってやる」
「つきあ……え?」
「お前の言ってた、どれか……を決めるのも面倒だな、全部だ、全部」
「えっ、本当に? ご飯も、買い物も?」
「2度も言わせるな。だがプールだけは御免だ」

理由は全くわかんないけど、明日はデートらしい! やったあ、と喜ぶ俺にハードは呆れ顔だ。

「少しは責めりゃいいのによ」
「ハードは優しいなあ」

んなこと言うのはお前だけだ、だってさ。なら誰かに取られなくていいね、と返して頭を叩かれた。