白黒的絡繰機譚

共有通帳でも、作ろうか

財宝以外を欲しいと思ったのは、初めてだった。

「……」
「どうしたん? 今日はなんの難しいこと考えとるん?」

手を止めたドリルマンが、俺を見る。俺のことを、わからんと言うけれども、こうして何かに気がついてくることが多い。

「……まとまった金を、用意すべきか……と」
「夜逃げはせえへんって前にも言ったよなオレ」
「夜逃げでは……ない……」

ドリルが言いたいのは、恐らく……駆け落ち、だ。
以前、二人だけで、誰も知らない場所へ行こう、と言ったことがある。細かい質問と応答のやり取りの果てに出たのが、同じ言葉、だった。
今でもその気持ちはある、のだが、ドリルが嫌ならば、しない。

「じゃあどないした?」

掘った土壁に、寄りかかって座る。すると、膝の上に乗ってくる。可愛い。けれど、俺の身体の問題が、ここにある。

「こうした時に……正面から……抱きしめたい」

けれど、そうすればドリルマンの腹に穴を開ける。避けるように、横抱きという形にしか、できない。
……してみたくないと言えば、嘘になる。けれど、したところで達成感より、嫌悪が上回る。分かる。だから、しない。

「あー、それで金。基本から変えなアカンから、かかりそうやもんなあ」
「そうだ……」

通貨という意味で、金が欲しいと思ったのは、初めてだった。ただ一機のために、俺は、変化していく。変化したいと、思っていく。

「でも親から貰うた身体を……いや、オレんとこ自力でやったのおるしなあ。せやったらオレも金貯めるか」
「……?」

ドリルマンの腕の先が、俺の顔に触れる。

「オマエみたいに普通の手にしたら、もっとなんかできるやろ?」
「……」

ああ、やはりお前は、眩しい。ここは地中で、光なんかない筈だというのに。思わず、折ってしまいそうな力で、抱きしめる。痛い、と叩かれる。
全てが愛おしくて、眩しくて、愛らしい。

「ま、それならとりあえず仕事やな! 今回は弁償とかやらかさんよう気ィつけよ」

頷いて、戻る。先は長い。ゆっくり、二人で。