白黒的絡繰機譚

光届く深海

ウェーブの能力についての捏造設定有り

明るい浅瀬から、沿って進めば段々と光が減っていく。最後にたどり着くのは、魚すら殆ど存在しない深海。一人でそれを楽しむのが好きだった。なのに、どうしてこうなったんだろう。

「……」

もうかなり深くまで歩いて、自分のすぐ隣だって通常のカメラアイじゃ見えないくらいだ。自分で言うのもアレだけど、普通ならこんなとこを歩いたって楽しくないんじゃないか。……今俺の後ろをついてきてるのは、普通じゃない奴だけど。
SRNの、魚みたいな奴。それが俺の後ろを、ついてきてる。敵意はない、らしい。けど普通に怖い。目的がわからない。

「なんで」

疑問が思わず口に出る。暗闇に飲み込まれずに届いてしまったそれに、後ろのが反応した。

「貴方、好きなんでしょう」
「なにが」
「こうやって、海底を歩くのが」

馬鹿にされているんだろう。だって、コイツは泳げるのだから。
……俺は、水陸両用ロボットとして開発された。地上でも、水中でも、同じように動けること。そういう、水陸両用だ。
けれど、そんな盛りだくさんな挑戦、金のない時にするもんじゃないと思う。その結果が俺、地上でも水中でも同じように動けるけど、所謂水中専用みたいに、高速で泳ぎ回ったり、そういうのはできない。
後ろのコイツは、それができる。俺のコンセプトの、理想形みたいなやつ。
そんなやつが、どうして俺に絡むんだ。俺なんて、どうでもいいだろう。オマエみたいじゃ、ないんだから。

「なので、私もしてみたいと思ったんです」

そうやって、ふつふつ怒りが湧き上がってきた時に、浴びたのはそんな台詞。
意味がわからない。どうして俺が好きなことを、してみたいなんて思うんだ。
泳げるだろう。こうして一歩一歩、岩を踏みしめて歩かなくたって。

「こちらではそうなのでしょう?」
「は、」
「好意を抱いた相手の趣味に興味を持つのは、普通の事だと聞きました」
「な、あ、……え?」

意味がわからない。どうして俺が好きなことになってるんだ。
だってお前、俺と違うじゃないか。俺なんか、気にする必要ないじゃないか。なのに、どうして。

「実際やってみると、確かに素敵だ。貴方が気に入っているわけだ」

ここは深海で、意識しなければなにも見えないし殆ど聞こえない。だから、届いた唯一の言葉を考えてしまう。だから、一人がよかったのに。
困惑と、怒りと、驚きと、何かがごちゃまぜになって全身を駆け巡る。一人がよかった。一人でいたかったのに。

「……お前の、名前も俺は、知らないんだけど」

ほら、こうやって返事をしてしまうから。