白黒的絡繰機譚

月の裏

メカ欠損描写有り

アイカメラから電子頭脳へ送信される情報が、ケーブル切断等の異常により想定外の受信先へたどり着いた。
……つまり、これから話すのは人間で言うところの夢みたいなもんだ。俺達の飛ぶ世界じゃない、けれど俺達のいる世界。訳が分からない? 人間だってそう言うんだ、俺達じゃ尚更だ。
とにかく、その世界とやらは酷いもんだった。人どころか建物すらろくに見えない程の遥か上空だってのに、とにかく熱かった。そんな場所から見てそうだったんだから、地上はもう地獄のようなことになっているんだろう。そう、遥か上空から見ていたんだ。頭から下を殆ど失くして、お前に抱えられた状態で、な。

『見ろよポンコツ、凄いだろう?』

俺はどこも動かすことなんて出来なかったから、声しか聞こえなかったな。笑い方も話し方もお前とは違ったが……、あれはお前なんだろうということは分かった。

『この星の全てが我々の手によってあの方のものとなった』

その時初めて、俺はロックマンに感謝したね。お前達がこっちから見りゃオーバースペックなのは知っていたが、それでもここまでやれるとは思っちゃいなかった。
ま、俺達DWNとお前らSRNじゃ目的が違うんだから、当たり前といえば当たり前なんだが。
……確かこの辺りで、首から下はごっそりと落ちた。そりゃそうだ。元々かろうじて繋がってただけだったのに、お前の速さと熱に耐えられるわけがない。

『本当は、ここからお前を突き落としてやりたかったんだが……――』

物騒なこと言うような声じゃなかったな。じゃあどんな声か、と聞かれても俺には何とも。夢はここまでだ。

「それで、俺に聞かせてどうしたいんだよ」

目の前に座るジュピターは、困惑顔をしている。そりゃそうだ、こんな与太を聞かされりゃな。

「そういう顔をさせたかった」
「……趣味悪ぃなあオイ」

困惑を通り越して疲れたような顔を、思い切り笑い飛ばす。

『――……それよりも、お前じゃ永遠に見られないものを、見せてやる』

――本当は、まだ続きがある。静かな声だった。それ以降アイカメラも本格的にイカれたのか映像はなく、感覚だけだ。上がっていく、どこまでも。恐らく大気圏すら突破するような上昇速度と温度で。
絶対に落とさないように、軋むほどに抱きしめられながら俺はそれを感じ続けていた。

「お前も相当だろ」

夢のお前の行動の真意が分かってしまったから、俺はこれをただの夢だと片付けられず共有してしまう。きっと、お前も分かったはずだ。
誰のものでもない、太陽の降り注がない場所まで、行くのだと。