白黒的絡繰機譚

こわいこわい

そもそも、俺の世界には2つのものしか、なかった。仕事とそれ以外。だが、出会って変わった。
ドリルマン、お前に出会ってから。世界が色づく、というのは、きっとこういう事を言う。

「そう言われると、えらいことしてしまったんかな思うんやけど」

どないしよ、と俺の腕の中で、ドリルマンが呟いた。今、俺の世界には、3つのものがある。ドリルマンと仕事とそれ以外、だ。

「えらい……ああ、凄いこと、なら、確かにした……かもな」

ドリルマンの言葉は少し変わっていて、すぐに意味が分からない時が、よくある。

「オレ、ガス管以上のこと責任取れへんよ」
「別に、こうしてずっと、傍にいてくれるなら……それだけで、いい」

一緒に仕事をして、休憩時間に抱きしめて。たったそれだけが、宝石よりも、価値を持つ。

「純粋に言うとるんやろなー! タダが一番後が怖い!」
「怖い、か?」

怖い、とドリルマンに言われるのは、初めてではない。最初の頃は、よく、言われた。他人に悪いように言われるのは、慣れていたし、俺を怖がっている様子も、可愛らしかったから、気にしていなかったが。

「怖いなあ。一途すぎて怖いわ。今んとこなんでか大丈夫やけど、いつ暴走するかわからんとこあるし。オレもアレやから、いつスイッチ踏んでまうか……」

うーん、とドリルが数秒考えて、そして顔を上げる。恐らく、考えるのが面倒になった、のだろう。ドリルマンはこういうところが、ある。それも可愛いと、俺は思うが。

「まあええか! なるようになる! 傍にはオレもいたいからいる!」
「怖いのに、か?」

普通、怖いと思ったら、近寄ろうなんて、思わないはずだ。それでも、とドリルマンは言う。

「怖いけど、一緒がええ思うからここにおるんや」
「……よく、分からない」
「オレもわからん」

分からない、が、ドリルマンが腕の中にいるなら、それでいい。

「休憩そろそろお終いやな」
「まだ、大丈夫だ。もう少し、だけ……」
「しゃーないなあ」

……本当は、永遠にこのままでいたい。
俺の世界の3つのものは、どんどん下2つの割合が、減っていく。仕事も、仲間も、存在意義も、ドリルマン、お前の前では全てが些細なことに、なっていく。
それを告げたら、怖い、で済むだろうか。怖いと言って、何処かへ逃げてしまうだろうか。
そんなことは、させないが。深い深い穴を掘って、誰にも見つからないよう埋めて、そこで二人きりになろう。
それは、とても楽しみで……ああ、怖い、怖い。