白黒的絡繰機譚

回転と燃焼が終わるまで

――それは別に、俺たちに限ったことではなく、ヒトだって同じだ。
ただ、俺らの場合はヒトなんかよりもずっと酷いものに違いないだろう。

「電源切れば、断末魔なんてあげねぇもんなぁ」
「ああ」
「更に後始末も楽だ。リサイクルって手もあるし」
「若しくは、展示ケース入りとか。ナパームのトコみたいに」
「あれは……マースじゃないが、遠慮したいところだな」
「俺もそう思う」

お互いに口調も気持ちも落ち着いていて、和やかに言葉が流れていく。
けれど、その内容は酷く達観しているとでも言おうか、他人事の用でしかない。
紛れもなく、俺たち自身に関することだというのに。

「ま、何を言ったところで……俺たちの望む通りにはならないだろうな」

それに対して、何か明確な望みがあるわけじゃない。
それでも、多分俺たち以外の誰でもきっと『望んでいないこと』の方はハッキリとしていたりするものだ。

「ああ……時期も、方法も、その後もきっと、望むとおりになんてならないだろう」

例えば、遠回しに宣告され、例えば、突然動かなくなり、例えば、悪意を持って手を下される。
そうやってロボットは『死ぬ』 けれど、そんなことをする割には、俺たちが自らの意思で結果がそれになる行動をすれば、無理やり引き戻す。
勝手だ、勝手極まりない。
そんな風だからこそ、俺は生まれてもいないこの星を慈しんでも、ヒトに情は感じない。
修復してもらった恩は感じても、情は感じない。感じれるわけもない。

「……ジャイロ」

けれど、俺たちはここからは逃げられない。
逃げ出したいと思っているわけでもないが――住みやすくはあるし、生活が退屈なわけでもなんでもないから――それは事実だ。
それに、逃げ出したところで、俺はともかくコイツはどうしようもないのだ。
プロペラでは、空気の無い宇宙を飛べない。

「何だよ。――ああ、もしかしてアレか?この辛気臭い空気を吹き飛ばすような胸焼けするような台詞でも言いたくなったか?」

そう言って向けられた顔は、何時もと同じく見下したというか、余裕が溢れている。

「え…。…いや、別にそういう訳じゃ……というか、お前は俺を何だと思ってるんだ」
「ん? わざわざ聞きたいのか?」
「いや……いい」

マスクの端から口が見えそうな程笑っているだろう、というのがたやすく想像できる。
そんな何時もと変わらない様子は、俺の変に強張った――様に感じるだけで、実際はそんなことあるはずもない――肩から力を奪っていく。
そして、胸焼けはないが何時の間にか消えた辛気臭さに安堵した。
――これで良いと思う。お互いに重いものを抱えていたらどうせ飛べないのだし。
けれど、

「ジャイロ」

例え、その時に全てを奪われるのだとしても。

「記憶だけは、持っていこうな」

多分、これ位は抱えて飛べるはずだ。