白黒的絡繰機譚

付加価値上昇中

ジャイロ+クリスタル ジュピター不在

まだ、青しか見えない。

「――ジャイロ、貴方って」

クリスタルマンというロボットについてなら、もうとっくに学習した筈だ。

「……」

だけど、学習したのは結果だけであり、対策方法は知らない。
というか、そもそもそんなものは存在しないと思う。
生みの親も、俺たちも、誰も止められないコイツを止められる奴がもしいるならば、お目にかかりたいもんだね。
そして、

「本当に、ジュピターの事がお好きですね」

……止められないから、こんな事を言われる羽目になる。
ああ、今日は太陽が眩しいな全く。

「……」

何か反論する気力も湧かない。どうせ無駄だしな。
コイツの言う事は何だかんだで正しくて、それを分からせるだけの話術も備えてる。多少……いや相当胡散臭いが。

「おや、否定しないんですか?貴方らしくも無い」
「お前こそ。わざわざ職場にそれだけ言いに乗りこんで来たってのか?」

コイツは基本的に外に出たがらない。
の癖に今日は何なんだ? これだけ言いに来たって訳じゃないだろうし。

「勿論、これはついでですよ。お使いの帰りですから」

チラリと何か探すように視線が動く。……そっちには何もないぞ?

「あ、そう……」

涼しい顔(大概そんな顔だがコイツは)でそう言われれば、こちらとしては何も言い返せない。
あとお使いとか言うな。グラビティーとかでもないんだから。お前そんな言葉が似合うような年齢設定されてないだろうが。

「……張り合いが無いですねぇ。ちょっと前の貴方なら、嫌そうな顔をしながら全否定したものですが……ってそんな苦虫を噛み潰したような顔をなさらなくても」

そんな顔以外にどうしろっていうんだお前は。
本当は否定したいさ。
けど、もう認めてしまった後だし、それのキッカケはコイツだ。
それを分かっていて否定するなんて滑稽な事、俺には出来ない。大爆笑されるのが目に見えている。

「お前とアイツに関わる話をするのは御免だ」

居心地が悪くて仕方が無い。
俺が俺でいる為にすることの殆どが無駄で、無意味で、どうしようもなくなるから。

「おや、そうですか。じゃあ私、帰りますね」

ガラスドームの外の通路には、やっぱり誰もいやしない。

「え」
「何ですかその『え』は。それに言ったでしょう? 私お使いの帰りなんです。だから元々、あまり長居出来ないんですよ」
「あ、ああ……。そうか」

なんというか……拍子抜けだ。いや、何も(でもないか)無かったのは、良い事なんだが。
てっきり『最後まで』いるのかと思ってたんだが。

「という訳で失礼しますね。お仕事頑張ってください」

まぁ、頑張る程客も来ないがな。とりあえず出口へと向かう背中を見送る。

「……ジャイロ」

振り返る。
その顔は……まぁ何時も通り、涼しい顔で。

「そんなにガラスの向こうが気になりますか?」

庭園を覆うガラスの向こうは空しかない。
雲ひとつない快晴だから、絶対に見えてしまう。
何が? そんなもん――。

「……何時も大体、このくらいの時間に来るんだよアイツは」

慣れきった毎日の事。俺が決めた事じゃあ、ない。
アイツが勝手にやってるだけ、そう、そうなんだ。
なのに空にはまだ、何も浮かんでなくて、空気に乗るのは俺のものではない溜息一つ。

「……御本人の目の前でも、そういう態度を取って差し上げれば良いのに」

うるさい。
やらないからこそ良いんだよこんなもんは!