それを証と世間が呼ぶならば








例えば最後のワンシーン








証と呼ばれるものは世間には沢山存在する
しかし!それらの多くは目に見えないものでもある
例えば、俺がヒーローであるという証はそれに当たると言って良いと思う
ヒーローである事は揺るぎ無い事実であるにもかかわらず!世界はこんなにも平和なのだから
……勿論、ヒーローとしては平和は望ましい事なのだが


「……だが、なぁ」


「ファイヤーマン?どうかされたでありますか?」


くるり、と振り向いてきたのはアイスマン
その身体の所在地は俺の膝の上かつ腕の中
そして目の前には、日曜朝から絶賛放送中の30分という短い時間に全てを詰め込んだ素晴らしいヒーローたち


「素晴らしく平和だと思ってな」


勿論、前述の通り平和は望ましい事だ
俺の様なヒーローにとって、悪の根絶、平和の世界こそが理想であるのだから


「そうでありますね。素晴らしい事であります」


そうだ、素晴らしい
素晴らしすぎて、身体がなまる位だ


「そうだ、なぁ……」


決して、退屈な訳ではない
テレビ画面は今週も素晴らしい物語を繰り広げている
もうすぐ必殺技で悪がけし飛ぶクライマックスが訪れる


「……?ファイヤーマン?平和はお嫌でありますか?」


「まさか!俺はヒーロー!!平和は願えど、厭うものじゃない!!」


叫んだのは間違いなく本心
……だが、アイスマンが言った事も本心なのかも、しれない
ハッキリ言おう、退屈なのだ
ヒーローといえども、活躍する場がなければヒーローではいられない
なぜなら、ヒーローである証を証明できないから
形ある証が無いというのは、こういう時問題だ


「……嫌な訳じゃないんだ。ただ、こう……なんというか、ヒーローとしてすべき事が出来ないのがなぁ……」


ふわふわとしたアイスマンの頭に顎を預ける


「ヒーローとは、難しいものなのでありますね……」


「ああ、難しい」


そういえば、世界が平和になった時このテレビに映るヒーロー達は何をしていただろうか?
……ううむ、どれだけ思いだしてみても、後日譚として少し触れられてはいても、メインとなった話は無いみたいだ
それだけでは、イマイチ良く分からない
俺は、どうするべきなのだろうか?


「……!!そうだ!思い出したぞアイスマン!」


「な、なんでありますか?」


ほんの数日前、エレキマンが言っていた事
『キス』という名のその行為
アイツの言っていた事が正しければ、俺はヒーローとして、それを実行せねばなるまい


「よ、よく分からないでありますが、それがヒーローのすべきことなのでありますか?」


キョトンとした様子は、何時にも増して俺を熱くする
そう、アイスマンがこうしていられるのも全て平和のお陰だ
くるりとアイスマンを反転させて、後ろを支える
マスクを外して(ヒーローとしてはアレな気もするが、邪魔なのだから仕方がない)








「平和に、感謝を!そして、お前に愛を!」


触れた唇は、熱かったのか冷たかったのか、よく分からない
……が、最終的にお互い熱くなった事だけは、事実だ








例えば最後のワンシーン
ヒーローとは、愛しい愛しい恋人と、平和を満喫するものではなかろうか?