白黒的絡繰機譚

最初で最後

空を見上げて、見上げて、まだ来ない。

「……遅い」

呼び出してから15分が経過して、やっと現れた奴に吐き捨てる。
なあ、俺は確か『10分以内に来い』と言ったはずなんだが?

「これでも最高速だったんだ! 無茶言うな!」

無茶? 何が無茶だって言うんだ。お前確か、俺にそのスピードを自慢してきたことあったよなぁ?
なんて、憎まれ口を叩いてやる。余裕があるフリをする為に。

「……ま、良いか。うん……」

そう、それはまぁ、今は大した問題じゃない。
勿論呼び出したのには理由がある訳で。
……正直、どう言ったら良いのかが分からない。わざわざ呼び出して、この状況を作ったのは俺なのにな。

「……それで、何なんだ。いきなりこんな、呼び出して」

ああ、あるさ。あるとも。あるから、呼び出したんだ。
呼び出したんだが……。

「……」

言葉が出ない。
元々何か具体的に考えていた訳ではないから、今更言わなければならない事の断片すら見つからない。
言わなければならない内容はたった一つなのに、方法が幾らでもあるからいけないんだ。
別に、俺の所為じゃない。

「……言え」

そう、俺の所為じゃない。
じゃないんだが……俺には上手く、言えない、から。

「は?」

今更だと思うし、無理だったから仕方が無いと思う。
けど、最初のあの時にちゃんと返事が出来たのならば、こんな思いはしなくて済んだんだ。
それもこれも、全部お前の所為だ。うん、絶対そうだ。

「言え。アレだ、その……あの時の、アレだ」

お前なら分かるだろう? 俺が何を言いたいのかってことくらい、簡単に。

「それって……」

……だから、その多少驚きつつ緩んだ顔何とかしろ。
顔が半分しか見えてないのにそれだけ分かるってどうなんだよ。

「……その、あの、お前が俺について思ってる、事を、だな……」

でも、俺から直接的な事は何一つ言えない。
自分から言うなんて、負けたみたいでなんか嫌だ、なんて思って口が重くなってしまうから。
惚れた方が負け、って言ったのはどこのどいつだっけ?
そう考えれば、負けてるのは確実にお前の方なんだが、……今は、どうなんだろう。
うん、まぁ、何でもいいか。とりあえず、お前は早く俺に言え。

「……ジャイロ」

何時もは見つめても何とも思わないお前の顔が、今だけは見れない。
……勿論、感づかれたくないから逸らしたりなんてしないけれども、瞳の中心に映ってる自分の顔は、見られないし見たくない。

「……お前が、好きだ」

そうそう、お前はそうやって素直に俺の欲しいモノを渡せば良いのさ。
そうしたら俺もきっと最初で最後、お前の一番欲しいモノをやろうじゃないか。
聞き逃すなよ? どんな事があっても消去できないよう、メモリーに刻みつけとけよ?

「俺もお前が好きだよ、ジュピター」

ほら、今くらい大人しくしといてやるからさ。
……何よりも速く、早く俺を抱きしめてキスくらいしてみろよ。







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