白黒的絡繰機譚

光石

あの日、あの時、あの場所で、出会えたのは、多分、奇跡……とか言うヤツ、なんだろう。
出会えたのは、偶然、なのだから。偶然は、大切にしないと、いけない。
そう、大切にする、と決めた。
きっと、これ以上の事はもう、ない。
……もう、ないんだ。

「おーい、何ボーっとしとるん?」
「……!」
「大丈夫かー?」

視界に入るのは、振り回されるドリルと、心配そうな顔の二つ。
肯定の意味を込めて、頷けば、それは止まり、表情も緩む。

「もう少し掘ったら休憩な。だからもうちょい頑張ろうな」

そんなこと、言われなくとも。
お前が頼んできた事を、頑張らない理由なんて、考えられない。
頑張ればお前は、喜んでくれるのだろう?感謝してくれるのだろう?
もしかしたら……好きになってくれるの、だろう?
……そんな可能性は、きっと、この足元に溜まる土砂よりも、少ないのかも、しれないけれど。

「――お疲れー。やっぱ二人だと進むの早いわ」
「……なら、良かった」

お前の役に立てれば、それで良い。
それ以外に、出来ることも、ないのだから。

「てか、何時もすまんな。お前そんなに共同作業とか好きと違う……と思うんやけど」

黙々と、暗い地下、一人で、ひたすら、掘り続ける。ただ、ただ、その先にある、光る宝を、目指して。
確かに、それが気楽で、一番良いと思ってきた。
そして、ずっとそうしてきた、筈。
けれど、今考えればそれは、過去の事に、なってしまった。
今の答えは、ただ一つ。

「……お前となら、良い」

何が、どうして、何故。全てが欠落した、短い言葉。
けれど、それが俺の口から出せる、精一杯。
それ以上に何を補うべきなのかが、分からない。
ああ、でも、それでも、

「うん、オレもや。一人より二人の方がええわ。効率も上がるし、何より楽しい!」

それでも、お前は笑う。
俺の短い言葉に、釣り合わないくらい、沢山のモノを与えて、笑う。
その、地下に似合わないくらい眩しいそれが、ああ、欲しくて、たまらない。

「……なら、良かった」

……ただただ暗い場所で、暗いまま、無言で、一人でいれたら良いと、思っていた。
けれど、目の前に突然現れた光は、それを全て、覆して、変えてしまった。
それが見つかったのも、光だったのも、全て偶然だから、大切にすると、決めた。
偶然の光は、きっと、もう、見つからない。他には、いらない。
もう光に慣れてしまったから、暗闇にも、無音にも、戻れない。
だから、だから、俺は、俺に出来る事を、する。
偶然を、終わらせないために、出来る事、を。お前の光を消さないために、出来る事、を。

「……」

もし、それが、俺の何かを、失うと、しても。