それはいけないよ、と声がする








声にならない








分かってる
分かってるさ
だからこうやって、今を幸せだと思っている


日付はもうとっくに変わって、起きているのは俺達だけ


「今日もな、アイツが……」


「ああ、あの部下の」


アイツ、って言った瞬間に、少しだけ不機嫌そうに見えたのは俺の自意識過剰だろうか
……きっと、そうだよな
だってお前は、俺とは近いけど違うから


「……だったんだよ。なんか、毎回すまないな。こんな愚痴ばかり聞かせて」


遅く帰った俺を迎えてくれるのは、何時だってお前
他愛もない愚痴を聞いてくれるのは、何時だってお前
嬉しいんだ
けど、誤解してしまいそうになる


「いや、構わないさ。俺は……」


なぁ、その先に続く言葉は何なんだ?
聞きたいけど、聞かない
もし……もしも、もしものことがあったのならいけないから
それは無いとは分かっているけれども、俺は何処かで期待してしまっている
だから、聞かない
期待が裏切られるのも、そうでないのも怖くてたまらないから

俺達はロボットで、男同士で、家族で
それなのに、それ以外の関係を望んでどうする
これ以上、非生産的なものになってどうするんだ


「……ああ、もうこんな時間だ」


続く言葉を聞かないように、そんな言葉でさえ切って
本当は時間なんて気にしたこともない癖にな


「そうだな……流石に、休んだ方が良いだろうか」


俺達みたいな戦闘用は、あまり休んで消費エネルギーを抑える必要性は無いのだけれども
……まるで、人間みたいに、そういう事を気にしたりする
これもお嬢様達が、俺達に色々な事を教えてくれたからだろうか


「お互い忙しいしな。今日はもう、休もうか」


「俺はそんな……忙しいのはお前だろう」


「何言ってんだ。お嬢様のボディーガードが楽な訳ないだろう。何たって、お嬢様だからな」


実際、ボディーガードとは名ばかりで、身の回りの事の殆どをこなす主夫状態だ
……ちょっと前までは、考えられなかった


「クク……まぁ、そうだな」


「ハハ……じゃあ、お休み、スカル」


「ああ、お休み……リング」


他愛もない事を話して、笑って、過ごして
例え望みどおりではなくとも、この関係は、心地よい
だから、








……分かってるさ
だから、今が一番幸せ……そうだろう?