かわいそう
一番触れてほしくない者がベタベタベタベタ……!ああ、俺はなんて可哀想なんだろう!!この、両肩にかかる、重みがうっとおしい!
「ジェミニ」
「…………」
耳元で発せられる、声がうっとおしい。
「じぇーみにちゃん」
「…………」
小馬鹿にしたような、不快な呼び方がうっとおしい。
「……無視んなよ」
「…………」
返事をする必要なんてない。振り返ってやる必要なんてない。
俺がコイツを構ってやらなければいけない必要性など、どこにもない。
だから、何時だってその態度を崩していない。
……なのに、だ。
「何だよ、もしかして返事するのも恥ずかしいとか?」
(なんでそうなる……!)
この蛇はどうしてこう俺を斜め上の解釈で捉えているのだろう。
しかもそれを事実として広めてくる。
この前なんかシャドーに「スネークと付き合っているというのは本当か……!」と凄い形相で聞かれたぞ。どうして信じる。
勿論否定はしっかりしたが。
「……否定がないってことはやっぱりそうか」
(違う!断じて違う!!)
何でコイツはこうポジティブ……というか自分の都合の良い方にしか考えないんだ。
ここはやっぱり話しかけたくもないが、否定をしないといけないらしい。
「そんな訳ないだろう。人が黙っていたら勝手に……!」
「お、やっと返事したな」
「…………!!」
……しまった。もしかして、わざとだったのか?!
「恥ずかしくないんだったら、なんで俺に返事しねぇんだよ」
「……する必要がないだろう」
本当はこの質問にも答える必要性はない。
それなのにわざわざ答えてやっているんだ。少しは感謝くらいしてほしいものだがな。
……いや、コイツに感謝されてもされなくても、どっちに転んでもろくな事にはなりそうにない。
「冷たいねぇ……ま、そういうとこも嫌いじゃないけどな」
(俺はそういうところが嫌いだけどな)
そう面と向かって言えたらどんなに良いか。
コイツの性格を考えると、言った後の自分の身が危ないので言えないが。
「それに何だかんだでジェミニちゃんは俺のこと好きだもんな?」
「…………はぁ?」
今なんと言った。
今、この蛇はなんと言った?
好き? 俺が? この俺がお前のことを好き?
どれだけポジティブ思考なんだこの蛇は!!!
ふつふつと、怒りが湧き上がってくる。
今まで押さえつけてきたモノが、怒りと一緒にこぼれそうだ。
……ああ、もう限界かもしれない。いや、限界だ。
「お前、いい加減に……!」
そう言いながら振り向いた、その時、
「……やっと振り向いたな」
余裕綽々な、嫌いな声がした。
「……!?」
声がした次の瞬間、顎を掴まれ、身体を地面に押し付けられる。
視界には、馬乗りになって笑う蛇が一匹。
逃げ出したいのに、身体は動かせない。
……こうなると、この後の展開は一つしかない。
「分かってんなら、大人しくしとけよ?」
俺の上の蛇が笑いながらそう言う。
不本意ながら、言う通りにするのが最善だ。
……ああ、俺って本当に可哀想!