そんな、事が、あるなんて(スター→クリスタル)
不変は叶わない(ファラオ→クリスタル)
透明な機械人形の話(クリスタル独白)
コア(スター→クリスタル)
テーブルに並ぶは、運命を決める22枚。
「ねぇ、愛しいクリスタル」
「どうかしましたか?スター」
「占ってみてはくれないかい?僕と君の、これからを」
「……宜しいのですか?」
「?勿論だよ。まあ、占わなくとも僕たちの永遠の愛は決まり切ったものだけどね」
「そうですか。……まぁ、宜しいでしょう。占いましょうか」
永遠の愛も、運命も、何も、出ないのは決まり切ったことですが。
これもきっと、良い機会なんでしょう。
「……」
「どうだい?」
「貴方の運命の方は『誰よりも貴方を理解し、支えてくれる、心優しい美しい人』……だそうですよ」
そう、つまり、私ではないんですよ、
「……ああ、」
ホラ、貴方が落胆するのが分かる。
騙すつもりはなかったけれど、貴方が幸せそうだったから、言えなかった。
「……やっぱり僕の運命の相手は君しかいないよクリスタル!」
「……え?あの、占いの結果聞いてましたよね?」
何で断言できるんですか?
「当たり前じゃないか。僕が君の言葉を聞き逃す訳ないよ」
「なら、何で……」
「……前から何となく思ってたんだけどね、クリスタル、君は君を低く評価しすぎてないかい?」
「そんなことは……」
「あるよ。僕は君以上に僕を理解してくれて、支えてくれる優しく美しい人を知らないよ。今までも、これからも」
「……」
「クリスタル、愛しているよ。今までも、これからも、ずっと、永遠に」
ああ、きっと人の身ならば、私は泣いていたのでしょうね。
「そなたは今日も美しい」
ああ、見たくない見たくない。
「……貴方は今日もお変わりなく。何時ものようになりたくなければ、お帰り下さい」
「今日もつれないな……。いや、そこがそなたの魅力でもあるのだが」
「魅力も何もないでしょうに。貴方の言葉は全てが不快です。早く消えて下さいませんか?」
薄っぺらい言葉、嫌いな言葉。
そんな言葉に、意味などありはしない。
「不快、か……心からの言葉をそう切って捨てられると、流石の我も傷つくぞ?」
「どうぞ傷ついてください。寧ろ傷つけば良い」
私が味わう不快感を、貴方も味わえば良い。
そして、もう私に関わらなくなれば良い。
「……そなたは、我の何が嫌でそのような拒否を示す?」
「……呆れた方ですね。どこまでご自分に自信を持っているのですか?何が嫌か、と問われれば答えは一つしかありませんよ。全部です。貴方の全てが私を不快にさせるんですよ」
「違うだろう?」
「な……っ!?」
両手首を押さえられ、勝手にヘルメットを外される。
「そなたが嫌なのは『我が容姿を褒めそやすこと』……だろう?」
「……」
「見目が麗しいことを何故そうも嫌悪する?それはそなたの長所ではないのか?」
「……貴方に言われたところで、長所だろうと何だろうと不快にしか感じませんが」
「我が嫌いか?」
「嫌いですよ。何度言ったら分かって頂けます?」
ああ、マスクの上からでも分かる。
口角が持ち上がった事が、ハッキリと。
「そなたも何故分からない?我が何時、そなたの内面を愛しておらぬと言った?我は我なりに、そなたの全てを愛しているというのに」
「……嘘がお上手ですね」
「そなたこそ、受け流すのが上手なようだ。だが、動揺を隠すのは下手だな」
「……」
「……そんなに睨みつけてくるな。今日はもう帰るとしよう。……明日も、また来るぞ。そなたが我を愛しているというまで、何度でも」
「……」
落ちたヘルメットを拾う。
ただ、被り直そうという気にはならない。
「……あんな言葉、聞きたくなんて、なかった」
嫌悪は変わらない。
でも、変わらないままでいる自信が、どうしても持てなかった。
初めは、人型ですらなかった。私は水晶を作り出す為の機械。
それ以上でもそれ以下でもなく、ただ存在していた。
ひたすらに自分の役割を、唯一の責務を果たす為に、ひっそりと。
ある日、起動すると「身体」があった。
「視覚」があった。
「聴覚」があった。
「嗅覚」があった。
「触覚」があった。
大幅に増えたプログラムで起き上がると、一人の老人が私を見て満足そうに笑った。
――私は、水晶を作り出し、それを売る為の人型ロボットになった。
老人には、本人曰く崇高な野望があった。
私にとって、それはとてもどうでも良い事だったけれど、老人がそれを望むのならば付いて行こうと思うくらいの親愛は持っていた。
だから、私は老人の為に、自分の役割を果たすことにした。
一般的な人の基準から見て「美しい」と感じる顔。
柔らかく落ち着いた雰囲気を持つ声と物腰。
それらを使って、私は人を騙した。
騙される方が、悪いと思った。
甘い言葉に騙されて、言われるがままに動いて、それでも幸せそうな顔をする事を、愚かだと感じた。
けれど、誰もが私に感謝した。
小道具だったはずの占いは、何故か真実のみを示していたから。
それを知った時、老人には悪いと思ったが、騙す事を止めた。
代わりに占いで小銭を稼いだ。
私のするべき事は、それしかなかったから。
存在理由は金銭を稼ぐこと。
私にあるのはそれだけだった。
ある日、老人はまた、私を改造することにしたらしい。
今度は、戦闘機能が加わった。
そして、以前、作業台に乗っていたのを見た事のあるロボットたちと、一緒に仕事をこなした。
……誰かと共にいるというのは、とても、楽しかった。
それ以上に彼らが好きだったから、今も、一緒に行動している。
……それは、とても幸せな筈なのに、時々、どうしようもない不安に襲われる時がある。
理由は分かっている。だけど、だからといって何が出来る?
この不安は誰にも取り除けない、私にこれを与えた老人にも、どうしようもない。
私の本質は、今はコアとして動くただの物言わぬ機械。
この声も、顔も、身体も、性格さえも、私のものじゃない。
だから、嫌い。
私は、誰かが褒める私じゃない。
それは騙す為に造られた、与えられた、私じゃないもの。
だから、好意に応えることも出来ないまま。
……好意を伝えることも、出来ないまま。
コア、こあ、core。
それは心臓、それは頭脳、それは心。
コアが無ければ、何も始まらない。
「クリスタル」
「何か御用ですか?」
「ううん、そういう訳じゃないよ」
「そうですか」
君は透明。
多分そのコアの全てが透明なんじゃないか、なんて思う事もあったり。
それはまぁ、外見からの勝手な想像なんだけどね。
「でも、恋人の名前を呼びたいと思うのは仕方ないよね」
「そんなものですかね」
「そうさ。勿論君が嫌だと言うのならば止めるよ」
「別にそうは言ってませんよ。それに、嫌だったらとっくに止めて欲しいとお願いしていますよ」
「それもそうだね。うん、君はそういう人だ」
「……」
君は透明。
つまりは濁り易い。
そして壊れやすいのかもしれない。
「……クリスタル?」
「どうかしましたか」
ああ、僕じゃ君の濁りを取り除いてあげられないのかい?
いや、例え取り除けなくとも、受け止める事も、引き受ける事も、共有する事も実行する心構えはとうの昔に出来ているというのに。
「いや……、何でも無いよ」
けれど、君がそれを頼んでくれない限り、僕には何も出来ない。
でも、それもきっと、君らしさだよね。
「……スター」
「なんだい?」
君は透明、コアは透明。
君の本質は、きっと限りなく透明。
「私の事が、私の全てが、お好きですか?」
見えない唇から紡がれたのは、透明な問い。
「当たり前じゃないか!僕は何があろうとも、君の全てを愛しているよ!」
だから僕も濁りのない言葉を返すよ。
「……ありがとうございます」
うん、君はそう笑うのが似合っているよ。
だからこそ、君の心臓に、頭脳に、心にある濁りを解消してあげたいんだ。
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