ふわり、ふわり、ふわり








風になって








「ハヤト!」


俺を呼ぶ声が、何故か……上から聞こえた
その声は、ちょっと前から聞き慣れてしまった声


「……え!?ま、マツバさん……!?」


顔を上げると、そこにはマツバさん
……が、何か風船みたいなものに掴まって浮いていた
あっけに取られてる俺の前に、マツバさんはふわふわとそのまま降りてきて


「御苦労さま」


と言ったかと思うと、風船はモンスターボールに吸いこまれた
ああ、あれ……ポケモンだったのか……


「やあ、こんにちはハヤト」


「あ……こ、こんにちはマツバさん……」


「……?どうしたんだいハヤト」


「えっ。あ、ああ……ビックリして」


マツバさんは一瞬キョトンとしたような表情をした後、合点がいったらしい
しまったモンスターボールをもう一度取り出した


「そういえば初めてだっけ。僕もひこうタイプのポケモンを捕まえたんだ」


マツバさんのモンスターボールから出てきたのは、さっきの風船……もといポケモン
紫色の風船の様な身体のてっぺんには、雲みたいなふわふわしたものがついている
口は絆創膏を貼り付けたみたいなバツ印
俺の手持ちとは随分種類の違うひこうタイプだ


「フワライド、っていうんだ。勿論、ゴーストタイプでもあるんだよ」


「フワライド……」


「ぷわわー」


名前を呼ぶと、嬉しそうに返事をした
撫でてやると……ちょっと、破れそうな気がした


「この辺じゃ見ないポケモンですね」


「うん、ホウエンのポケモンだからね」


「あ、じゃあ俺のムクホークと同じか……お前も、ずいぶん遠くから来たんだなぁ」


「ぷわー」


ふわふわと浮いているフワライドは、風が吹いたらそのまま一緒に飛んでいってしまいそうだ
見た目通りというか何というか、ホント、風船みたいだ


「ね、ハヤト」


フワライドに身体を預ける様にして、マツバさんが俺を見つめる


「はい」


「これで僕も、何時でもキキョウに来られるんだよ」


……そういえば、そうだ
さっきの空中浮遊(という感じに見えた)あれは『そらをとぶ』なんだろう
元々キキョウとエンジュは大した距離じゃないけれど……それでも、お互いにジムリーダーやってると、徒歩でゆっくり行き来する訳にも行かない


「そうですね……」


俺の返事に、マツバさんは少し眉をひそめる


「もうちょっと喜んでくれるかと思ったのに……」


はあ、と大袈裟に溜息を吐く
オーバーリアクションではあるけれど、この人は結構それが本心だったりする


「え、いや……別に、マツバさんから来てもらわなくても、俺からその……行きますし」


「分かってないなぁ、ハヤト」


「?」


何が……なんだろう


「僕が行くって事に意味があるんだよ」


「マツバさんが……ですか?」







「うん。これでハヤトがどんな時でも、助けてあげられるし、傍にいてあげられるよ」







……よく、こんなこと普通に言えるよな
なあ、フワライド、お前もそう思うだろう?