白黒的絡繰機譚

キスして。

年の差とか、経験値の差とか、そういうのは多分どれも関係ない。
ただ単に、俺とこの人の感覚が違うんだろうなって事。……それだけだと、思いたい。

「……」
「……」
「……それ、言ってて恥ずかしくないですか」
「え? なんで?」

キョトン、なんて擬音がつきそうな、そんな無垢な表情。どうしてそこでそういう顔するわけ?
俺には到底理解できません。

「なんでって……」

肩から力が抜けていく。説明する気?起きる訳が無い
……俺はダイゴさんと違って、普通の感覚の持ち主だし。

「駄目? 今までいっぱいしてきたのに、今から駄目?」

いっぱいとか言うな!ここはダイゴさんちで、俺達以外に誰もいないけど!でもだからってわざわざ言うな!
アンタってホントそういうとこ、分かってない!
……ま、分かったら分かったでなんかこの人らしくないんだろうけどさ。

「ねぇ、ユウキ君」

ボフっと後ろから抱きすくめられる。
これはこの人の『やってくれるまで逃がさない』って態度の表れだ。
なんでさ、こう子供っぽいのかねこの人は。俺より10以上年上の癖にさ。
なんにも知らない人はカッコいい人だって思う訳だろうけど……。
……本人には死んでも言わないけど、実際そうだと思ってたしさぁ……実態はさっぱりですよ。
残念ながら俺にはギャップ萌えとかそういうの無いしね?年上に甘えられても困るんです。

「……いやです」
「なんで?僕からされるのは良いのに?」

それとこれとが大違いじゃないの?
少なくとも俺はそうなんですが。絶対言わないけど。

「良いっていうか、嫌がってもダイゴさんしてくるでしょ」
「まぁね」

ニッコリ笑って否定しないのが憎らしい。
この人、石に関するのが一番だけど、自分の欲に躊躇ないよなぁ。
それに巻き込まれる俺の事、考えたことある?

「……」
「ユウキ君?」

下がった眉毛は微妙に『ごめんね』みたいなニュアンスがあるけど、俺を抱きしめる腕の力は緩まない。
むしろ強くなっている。

「ダイゴさんは」

でもさ、本当はまだ分かってないよこの人は。
あんまり嬉しくないけどさ、そういう人だって事、俺は知ってるし。別に知りたくなかったけど。

「優しいふりして、全っ然そんなことないですね」

だから、これからの為にも、言いますからね。……恥ずかしいけど。

「え、ちょ……ユウキ君」

「普通の人は恥ずかしいんです。もしかしたらダイゴさん位の大人だったら普通なのかもしれないけど、俺は残念な事に子供なんです」
そう、俺はまだ子供。
例え恋人がいたって、キスした事があったって、ポケモントレーナーになって実はまだまだ日の浅い新人オコサマなんだよね。

「だから、言わせてもらいますけど」

本当はさ、こういう事言わせる時点で駄目だとは思うんだけど……。まぁ、仕方ないかな。

「普通に考えて分かってください。ダイゴさんじゃないんだから、恥ずかしいです。その……」

口にするのすら恥ずかしいんだよアンタと違って!
今どうせ俺の顔は真っ赤だろうから……これくらい察してくれるよな?

「……『ユウキ君、キスしてよ。ね、深いのが良いな』」
「……っ」

さらりと反復できるって事は、やっぱりこの人俺とは感覚が違うんだと思う。
見上げてみたら、ちょっと笑ってるし。ああ、なんかムカつく。

「……ダイゴさん」

でも、その笑い方は笑顔っていうより苦笑って感じだから、まぁ少しは分かってくれた……のかな。

「俺に言う事、ありますか」
「スイマセンでした……」

無茶振りする割には、折れるのは早くて助かるけど、やっぱりそれなら最初から分かってて欲しい。

「分かれば良いですけど。これから同じ様なことしないでくださいよ」
「はい、分かりました。……ね、ユウキ君。普通のは、頼んじゃ駄目?」
「……自分で考えて下さい」

……別にさ、普通のキスだったら、良いけど……なんて言ったら調子に乗るんだろうな。だから絶対、俺からは言うもんか。