こえ
貴方はそれを曖昧だと、言っていた。「マツバさん」
そして不確かだとも、言っていた。
「なんだい?」
更には脆いと、言っていた。
「……何でも、ないです。気にしないでください」
今思えば、それはその通りというか、それ以上でもそれ以下でもないだけのものだったのだと、俺でも分かった。
それ故に、不思議な程俺の中に馴染んで、違和感が無い。それが良いのか悪いのかを考えるのは、いつの間にか止めていた。
こうやってお互いのポケモンを遊ばせながら、縁側でお茶を飲むような時間が日常に溶け込んだ様に、そのままにしとく方が良いのだと思うようになっていたから。……けれど
「何でもない、って顔には見えないよ。ハヤト君、何かあったの?」
ずい、と間近に貴方の顔が。やっている本人にとっては普通の動作(らしい)けれども、俺にとっては左胸の奥が跳ねる動作。
「いや、別に、その」
最初のうちは驚いて、そのうち普通になって、今は心臓が跳ねる様になった。
キッカケはなんだっただろう? 思い浮かばないだなんて変だな。いや、一番変なのはこんな風になってしまった事なんだろうけど。それを言っても仕方がない。
「マツバさん」
名前を呼ぶ、それだけ。特別な事は何一つしてない。呼び方を変えた訳でも何でもなく、ただただ、普通に。
「なんだい?」
それなのに、凄く特別な事をしたような気分になる。顔が熱くなっていくような気がする。
「……俺の事、その……まだ好き、ですか?」
聞かなくても、分かっているけれども。だってそういう態度だ。俺でも分かるくらい、しっかりはっきりと。けど、一応、万が一の可能性もある。ないだろうけれど。
「当たり前じゃないか! 誓った通り、僕は君の事を……!」
それ以上聞きたくなくて、とっさに右手で口を塞ぐ。
……あの時は驚くことしか出来なかったけど、今は恥ずかしくって仕方ない。だってさ。俺だってさ。
「俺も、好きみたいです。貴方の事」
そんな普通な言葉を、口に出せるまでたっぷり数十秒。
良く考えたら、口を塞いで至近距離で見つめあってしまったこの時間の方がよっぽど恥ずかしい事だよなぁ……なんて思っても後の祭り。でも俺は、貴方と違ってさらりと言える様な性格じゃない。
もしかしたら態度でバレてたかもしれないから、今更なのかもしれないが。それでも気がついたのなら、受け入れたのなら言わなきゃいけない。そう、それは必然だ。多分。
「……ハヤト君」
手を離して(いつまで塞いでるつもりだ俺は)見えたマツバさんの顔は、何故か今にも泣きだしそうに見えた。
どうしたんですか、そう聞きたかったのに聞けずに終わる。
口を開くより早く俺は身動き不能視界は90度回転、そして後頭部に鈍痛が。
混乱する俺に、降り注ぐ声は凄く凄く……ハイテンション!
「どうしよう。嬉しすぎて今にも死んでしまいそうだよ!!」
……前々から思っていたけれど、この人って本当に大袈裟だ!