白黒的絡繰機譚

ただいまと言ったなら

ホウエン地方の元チャンピオンで、デボンコーポレーションの社長の息子で、そのうえルックスが良くて。
でも石好きで、のめり込むと周りが見えてなくて、すぐ居なくなって、連絡もしてこなくて……。
毎回そう、この人はいつだってそうだ。
だから、そう今回も。そう、今回も、なんだ。

「……バカダイゴ」

どうせ電話をかけたって出ないから、俺から連絡なんてしない。してやるもんか。
きっとどっか遠いところで、石ばっか見てるに決まってるから、心配なんてしてない。してやるもんか。
……してない、しない、しない、してない。してないってば!
自分に飽きるぐらい、呆れるくらい言い聞かせてる。
我ながら馬鹿馬鹿しいことしてるとは思ってるさ。でも、何か両方ともしてるって認めたら負けな気がして。
……何にだよ、とも思ってるさ。勿論ね。

「せめてさぁ……行く前に一言言ってから行けっての」

そしたら、多分こんなこと思ってないのに。
気を使ってくるクセに、こういうトコに気が回らないんだから。残念な大人め。

「……!」

突然響く着信音だなんて、タイミング良すぎじゃね?
勿論、他の人の可能性が高い。何時ものバトルのお誘いとか、もしかしたら道具拾った!っていうのかも。
こういう気持ち吹っ切るために、バトルも悪くないと思うし、道具も貰えたらありがたい。だからそっちでも全然構わない。
でも、可能性は、ゼロじゃない……と思ってしまう。
……何だかんだで期待してる。あーあ。

「……もしもし」
『もしもし、僕だけど』

俺の耳に届くのは最後に聞いた時と少しも変わらない、何もなかったかのような声。

「……」

呆れて何も言う気が起きない、というのはこういうのなんだな、としみじみ思う。
第一、名乗りもしないってどうなんだろうか。
これだけほっといて、俺が愛想尽かしてるとか、そういうこと考えないの?

『ユウキ君?』

何でさ、何事もなかったかのように電話出来るんだよ。
まるで、俺だけ色々考えてたみたいで、何か、嫌だ。

「……」

だから、黙ってる。子供っぽいことしてんなぁ、とは思うけどさ。
これくらいしたって、別に良いだろう?

『ユウキ君……怒ってる?』

怒ってますよ、怒ってますとも。
だから、こんな電話じゃなくて、早く、

「――……ごめんね、連絡も何もしなくて」

――何時の間にか、部屋の扉が開いて、そこに、いた。
そして、酷く優しい表情で、切なそうに言うから、

「会いたかったよ、ユウキ君。ただいま、ごめんね」

なんて、抱きついてくるから、

「……おかえり、なさい」

俺はもう、顔を背けてそう言うだけしか出来なかった。
……勿論、絆されてるって事くらい、分かってるから。今だけはちょっとだけ怒りを収めて……うん、このままで。