白黒的絡繰機譚

キスゲーム

このゲームは、僕の勝ち。

「……」
「……」

これはゲーム。ルールはたった一つだけのとても簡単なもの。
参加プレイヤーは君と僕……だけど、君にはルールどころかゲーム自体内緒なんだ。
こういうのは、秘密の方が面白いものさ。そう思わない?

「あの、ダイゴさん」
「なんだい?ユウキ君」
「……何でもないです」

特に何をする訳でもなく、君を見てるだけ。
左手には本があるけど、あくまでもカモフラージュに過ぎないから、文字なんか一つも頭に入ってない。
読んでいると見せかけるために、ある程度の間をとってからページを捲るだけを繰り返す。

「……」

ミズゴロウにポロックを与えつつ、チラチラとこちらに視線が向けられる。
気になるよね。だって僕は普段ならこんな風にしていないから。
特に今日みたいに、会うのが久しぶりとなれば、尚更。
でも今はゲーム中だから。
僕だって本当は普段通りにしたいのさ。けど、たまにはこういうのもアリだと思うよ?

「……」

……困ってる。凄く分かりやすく。
ミズゴロウはまだまだ遊びたそうだけど、君の意識は僕の方ばっかり。
ちょっとだけ優越感を感じて、肩が震えた。
残念だけど、普段は逆だものね。

「ユウキ君」

でも、このままじゃ負けてしまいそう。
だから、状況打破の為にちょっとミズゴロウには退散してもらおうかな。

「何ですか?」
「ミズゴロウにメタグロスの相手を頼めないかな」

少しの、間があった。

「……どうする?ミズゴロウ」

聞かれた本人の返事は、嬉しそうな鳴き声。

「じゃあお願いするよ。ここは狭いから……外で遊ばせようか」

窓を開けると、待ちきれないという様子でミズゴロウが外へ飛び出した。
それを微笑ましく思いつつ、僕はモンスターボールからメタグロスを出す。
……多分この長い付き合いかつ賢いポケモンは、全部分かっている筈だ。
その証拠に、ちょっとだけ呆れた目でこっちを見てる。悪いね、少しの間頼むよ。
さあ……これで二人きり。さて、どうする?

「……」

二匹が遊び始めたのを確認するや否や、無言で歩み寄って来た君が座るのは僕の横。

「わざと、でしょう?」

呆れた様な、イラついた様な表情と声。

「アハハ、分かったかい?」
「あからさまです。それにダイゴさん、堪え性ないですもん。あと引っ付きたがりだし」
「君にだけだよ」

一応、大人だからね。
多少の分別や堪え性はあるよ。それなりには。

「他の人にまでやったら、只の変な人ですよ」
「それもそうだ」
「でも、」

――内緒で勝手なこのゲームのルールはたった一つだけ。

「……ダイゴさんは……ずるい、です」

こうするしか、ないじゃないですか。
多分小さな声はそう言った。
そして少しうつむいて、君は僕の右腕を抱きしめる。
……こんな風に、先に君からのスキンシップを得れば、僕の勝ち。

「じゃあ、ズルいついでに一つお願いしても良いかな?」

君曰く、堪え性がなくて引っ付きたがりの僕だから。
勝手だけど勝利の証に、君からのキスが欲しいな?