観察(ランス→アポロ)

それが良いと言うのでしょうが(ランス×アポロ)

無糖(ランス×アポロ)

犬と猫(ランス×アポロ)

貴方って本当に(ランス×アポロ)









































貴方はきっと、私が見ている事に気がつきはしない。
貴方はきっと、私が何を考えているのか気がつきはしない。
何故なら貴方は、他の誰よりもあのお方しか見えていないから。
「一体これからどうするつもりですか?」

我々の守って来た集団はもう存在しない。
3年前と同じく、潰えた。

「…………」
返答は頂けず、ただおぼつかない足取りで歩いていく。
飛べもしない癖に、何処へ行くつもりなのやら。

「聞いていますか?」

「…………」

無言のまま、振り返る。
その表情は、今まで見た事の無い蒼白した様な無表情。

「……ランス」

「何でしょう」

「如何したら、良いと思いますか?」

まるで抜け殻の様。
貴方が私にそんな風に意見を求めるなんて!

「そうですね……」

例え今抜け殻の様であろうとも、私はまだ貴方を見ていたい。
だから、

「探しますか?……私と、二人で」

貴方が多少なりとも希望を持てるように、手を差し伸べた











「……ランス」

「何ですか?」

ラムダが言うに、私は頭が少々固いらしい。
言われてみればそれは確かで、アテナやランスに指摘されて、やっと答えが見つかる様な時もある。
それなのに、私は集中していると何も聞こえないし、見えていない。
自分一人で手いっぱいになってしまう。
けれど、そうであるからといって、今の状況を無視する訳が無いのではあるのですが。

「放してください」

例えるのならば、蛇のように。
巻きつくように私の身体を束縛するのはランス。

「嫌ですよ。ならば、最初から抵抗なされば良かったでしょう?」

……確かにそうですが。
紙の束に印刷された活字を追う事に夢中になっていて、気が使ったのだから仕方ないでしょう?

「ランス」

少し強く名前を呼ぶと、何故か嬉しそうな表情をつくる。

「駄目ですよ。例え上司命令であろうとも、私は放しませんので」

「……そうですか。では、もう良いです。お好きになさってください」

活字に集中してしまえば、気にならなくなるのでしょうから。

「良いのですか?」

驚いた様な、喜んでいる様な。

「言ったでしょう。どうぞ」

付き合いは、短くない。

「アポロさん、貴方という人は本当に……」

分かっている筈。

「……?」

けれど、それでも。
何故か、考えが及ばない。

「本当に、私を喜ばせるのが御上手だ」

……私はやっと、自分の失言に気がついた。











「コーヒーを淹れてくれませんか」

私のその言葉に、貴方は少しだけ眉間に皺を寄せる。

「自分で淹れたら良いでしょう。普段はそうしているじゃありませんか」

貴方の言葉は確かに正しい。
私は自分でインスタントではないコーヒーを淹れる事が出来るし、実際そうしている。
けれど、普段出来ることと、今貴方に頼んでいる事は全くの別物だ。

「私はアポロさんの淹れて下さったコーヒーが飲みたいんですよ」

ソファに腰掛けた貴方の隣へ、そして耳元に囁く。

「……非効率な事を言いますね」

非効率、そうかもしれない。
けれど早さが最上だと誰が決めた?

「アポロさん、私は」

カフェインを含んだ苦い水。
無糖派であるから、それで構わない。
けれど、貴方の手にかかれば。
「もう貴方が淹れてくれないと飲む気がしないんですよ。貴方じゃないと駄目なんです」

砂糖なんて勿体無い、至高の飲み物へ。
勿論、私だけでしょうけどね?

「駄目ですか?」

もう一度、囁いて。
これで貴方は持っている本を置いて、キッチンへと向かうから。











飼い慣らされるのは性質じゃない。
組織に属していても、それは変わらず。
私は私であり、他の誰かに曲げられるものではないのだから。
……そう思っていたけれども。

「犬に懐いてしまえば、それもまた幻……」

「何か言いましたか?ランス」

「いいえ、何も」

私の愛した人は、忠犬気質。
この人に気に入っていただくには、飼い慣らされたくない所謂猫気質は、どうにも相性が悪い。

「犬がどうとか聞こえましたけど?」

「おや、聞こえてしまいましたか?けれど気にされる様な事ではありませんので」

「……」

眉間に皺が寄る。
折角の整った顔が台無しですよ?

「……犬で、悪かったですね」

小声はあったけれど、耳に届くには十分。
……全部聞いてるんじゃないですか、貴方。

「別に悪いなんて言ってないじゃないですか。お気に触りました?」

「…………」

「アポロさんは犬気質だと思いますけれど、似合うのは猫耳ですよね」

「な……っ!ランス!!」

見事なまでの紅色。
そういう所が、愛しいですよ。

「……お前は本当に……チェシャ猫で困ります」

「猫はお嫌いですか?」

「……さあ。好きになるかもしれませんし、嫌いになるかもしれません」

「なら、好きにして差し上げますよ」

貴方がこの猫の性分が、好きになる様に。











「暑くないんですか」

「……いえ、別に」

「顔、赤いですけどね」

「気のせいだと思います」

よく分からない意地っ張り。
貴方、結構負けず嫌いですね?
多分、私に関してだけな気はしますけど、それはそれで。

「こんな時くらい、もう少し他の格好をしたら如何です?」

「別に良いでしょう。私の勝手です」

手にはホットではなくアイスコーヒー。
履いている靴だって、夏用のそれだというのに。
まあ、似合ってはいるんですけどね。
貴方には、白と黒がよく似合う。

「それに……」

「それに?」

「お前だって、普段と同じ黒ずくめでしょう」

私だけ責められるのはおかしい、と言わんばかりの視線が刺さる。
……心外ですね。
私は貴方と違って、考えて服を着てるのに。
シャツ一枚からベルトに至るまで、全てちゃんと考えてるんですよ。
それを黒づくめ、で切って捨てられるとは。

「……貴方って本当に、ファッションに関心が薄いんですねぇ」

「薄いですよ。ええ、自覚してます」

開き直られても、困るんですけど。
素材は良いのに、勿体無い。

「外、出ませんか」

「外は暑いじゃないですか」

「それは貴方がそんな恰好してるからですよ。せめてハイネックは止めませんか?」

「これ以外持ってませんから」

「ならば買って差し上げますよ。ほら、本なんか後でも読めるでしょう」

しおりを挟むまで待つのすら惜しい。 さあ、出かけましょうアポロさん。
貴方に似合う服、きっと沢山ありますから。