遠い金に触れる
転生パラレル
馬超の髪に触れる事は、馬岱にとって秘密の味を含むものだ。
別に触れるなと言われたわけでもない。ただ、自分は軽々しく触れてはいけないと、幼い頃から思っているだけだ。それでも、どうしても触れたくなる時がある。そういう時はそっと、ベッドで眠る横に息を殺して近づき触れるようにしていた。
今晩もそう。音がしないように細心の注意を払って扉を開け、歩みを進め、そっと膝をついて、手を伸ばして。
「……どうした、馬岱」
「……!」
あと少し、というところで、ぱちりと馬超の目が開く。
びくり、と固まった馬岱は震える唇を何とか動かす。
「ご、ごめん……若……」
「いや……。もしや俺は、居間に携帯でも忘れたか?」
「え、あー……うん」
曖昧に笑うと、馬超は納得したようだった。ちくり、と馬岱の胸に針が刺さる。
――ああ、何時だって自分はこうやって嘘ばかり吐く。よく分からないが、ずっとずっと、昔から。
「馬岱」
立ち去ろうと膝を浮かせた馬岱のトレーナーの裾を、馬超が掴む。
「なぁに、若。俺ももう寝るよ。ごめんね、起こしちゃって」
「明日は、土曜日だな」
「え?うん。明日って言うか、もう今日だけど」
「寝るまでが今日だ!……まあ、だから馬岱、来い」
くいくい、と馬超が指を動かす。馬岱は数度瞬きをしてそれを見た。イケメンはずるいなぁ、と場違いに思いながら。
「うーんと、若?」
「何だ」
「どうしてそうなるの?」
「お前こそどうしてそうならないと思うんだ」
「それ、キリッとしていう事じゃないと思うよぉ……」
ふう、と息を吐いて馬岱はもぞもぞと馬超の隣に潜り込んだ。
昔から、まるで従者のように馬超の後ろに付いて過ごしてきた。関係が変化して、それでも隣に立つより、少し後ろで背中を追う方が自分の性に合っていると思う。始めはごっこ遊びから始まった筈の「若」という呼び方を変える事無く今に至っているのも、それでかもしれない。それ以外で呼ぶ自分が、一切想像できないし記憶にない。どうしてかは、考えても分からない。
「何でもいいから来い、馬岱」
「はーい、はい。しょうがないなぁ、若は」
本当にしょうがないのは自分だと、馬岱は重々分かっているのだが。
狭いベッドでぎゅうぎゅうとくっつきながら、馬岱はそっと馬超の髪先に触れた。
――ああ、どうしてだろう。
美しい金の髪が、常に日の光を浴びれる事を、何故か涙が出そうになるほど素晴らしい事だと思った。