夏の暑い日
転生パラレル
夏には、あんまり良い思い出がない。
暑いし、泳ぎは下手だし、鎧は蒸れるし。それに……引っ付いたら、嫌がられた。
だから今年の夏も、きっとそんな感じになるんだろうと俺は梅雨の頃から溜息を吐いていた……んだが。
「夏侯覇殿」
「郭淮……?」
ぴと、と肌が触れ合う程近い距離に、俺は酷く驚いた。
だって、ずっと夏は『貴方の体温は……私には、熱すぎて』とかなんとか言って、近づけてすらくれなかったのに。
「え、どうしたんだよ。お前、夏くっつくと嫌がったじゃん」
「何時の時代の話ですか……」
「三国時代」
「その通りですけれども。あの時代は、今と違ってこのように快適な空間を作る事は出来ませんでしたから……」
懐かしむ様に郭淮が虚空を見上げる。
うーん、確かに。あの時代は電気なんてなかったから、こんな風にクーラーで快適空間!なんてのは無理だった。
でも、家を出ると、あの時より相当暑い。アスファルトの照り返しとか犯罪レベルだろ。
「この時代は本当に……大変素晴らしい!クーラー、なんとありがたいものなのでしょう!……げほげほ」
「まー、クーラーには同意するけどさ。こういうのって、お前の喉にはあんまり良くねぇんじゃ?てか、長袖着るくらいなら扇風機とかにしろよ」
クーラーのお陰で、俺は快適温度……なのだけれど、郭淮は薄いカーディガンを羽織っている。ローテーブルに置いてあるリモコンを見ると、設定温度は別に低いわけじゃない。
「これくらいが丁度いいんですよ。それに、今時のクーラーは、湿度も管理してくれますから……」
「まあ、お前がそれで良いってんなら良いんだけど。……てか、お前にくっつける夏って良いなぁ」
肩に手を回す。抵抗されるかな、と思ったけどそれはなかった。
すれ違ったまま終わっちまったあの大昔と違って、今は平和に、何の気兼ねもせず触れられる。
「……私も、そう思いますよ」
肩に回した俺の手に、郭淮のそれが重ねられる。
「えーと、郭淮?」
「何でしょう」
「その……今、何時だっけ」
「四時前ですね」
「だよな。昼の四時前だよな」
「それが何か」
「いやー……それにしては、お前の手つーか指の動きがさぁ」
まあ、ぶっちゃけ言えば誘ってんの?っていう。そういうアレだ。
「……そのように取って頂いて、構わないんですが」
「え?」
「っ、何度も言わせないで頂きたいっ!」
……あーあ、折角こんな快適な温度なのに。そんなに顔真っ赤にしてさ。くそ。
「わりぃわりぃ。……んじゃ、ま、移動しますか!」
ベッドはきっと、この部屋より大分暑いけど。ま、クーラーさえあれば平気だし。
ちょっと冷えてる郭淮の身体を抱き上げて、俺は行儀悪く扉を蹴り開けた。